顔を上げた私に、ロディははっきりとした口調で声をかけた。



「嬢ちゃん。もう一度、リバウンドを解く方法を探してみよう。

きっと、必ず何かあるはずだ。」



私は、ロディの言葉に力強く頷いた。



そうだ。

まだ諦めるには早すぎる。


レイにいくら拒絶されたって、傷ついてなんかいられない。



ロディが、モートンに向かって声をかける。



「名もなき魔法の解読は、そんなに難しいことなのか?」



私が、ロディにつられてモートンを見ると

モートンは机の上の魔法書を手に取ってページをめくった。


千歳草の表紙の魔法書…

それは、禁忌の記されたお父さんの魔法書。


私とロディが、机の上の魔法書を覗き込むとモートンがあるページを指して言った。



「魔法書の最後に載っているのが、名もなき魔法なんです。

ラドリーから受け継いだ後、二年研究を続けて、やっと全ての解読が終わりました。」



しかし、話の内容とは裏腹に、モートンは低い声で続ける。



「でも、名もなき魔法は“半分”しか記されてないんです。

他の魔法書をいくら調べても、どうしても残りの“半分”が分からないのです。」






“半分”しか記されていない…?!



ロディが、魔法書を見つめながら尋ねた。



「ページが破れていたとか、劣化し過ぎて読めないとかか?」


「いえ…続きのページは、真っ白なんです。

言葉の通り、何も書かれていません。」



そんな…!

どうして…?



私は、モートンから魔法書を受け取り、他のページをパラパラとめくった。


しかし、モートンの言った通り、名もなき魔法の次のページには何も記されていない。


モートンが悔しそうな声で口を開いた。



「ダウトの幹部たちに禁忌の闇魔法を授けられるほど、この魔法書を幼い頃から読んできたルオン君なら、もしかしたら何かを知っていたかもしれませんが…

シンの眠りについた以上、今では話をすることが出来なくて…。」



…!


確かに、魔法書に詳しいルオンなら、何か知っていたかもしれない。


全ての道が閉ざされた気がして、私は頭の中が真っ白になった。



…どうして、全てが記されてないんだろう。

他の闇魔法なら、一字一句溢さず書いてあるのに。



その時

私は魔法書を眺めていて、“あること”に気がついた。



「モートン。

この魔法書、表紙だけじゃなく、ページにも千歳草が書かれているんですね。」



目に止まったのは、ページの端に描かれた千歳草の絵だった。

ぺらぺらとページをめくると、三ページ先にあったり、隣のページだったり、ランダムにその装飾が施されている。


ロディが、私の言葉を聞いて腕組みをしながら口を開いた。



「言われてみればそうだな。

表紙も千歳草だから、そういう“デザイン”なんじゃないか?」



……“デザイン”。


モートンが、魔法書を見つめながら口を開いた。



「千歳草は、古代の人々にとっては、傷を治し永遠の命を与えるとされた神的存在でしたからね。

今でこそ科学が発達して千歳草を使う人があまりいなくなりましたが、昔の人にとっては必要不可欠なものです。」



だから、大切な魔法書に千歳草が描かれているってこと…?