───ドンドンドン


ロディが、樹海に囲まれたログハウスの扉を叩いた。


背中から降りた私は、ロディの隣で扉を見つめる。



…キィ。



珍しく、ログハウスの扉がすぐに開いて

中から白衣を着たモートンが出てきた。



「…やはり、ここに来たんですね。」



モートンは私を見て、少し寂しそうにそう言った。


長い前髪の間から覗く彼の優しげな翠の瞳が微かに揺らめいた時

モートンは扉を大きく開けて私たちに言った



「さ、どうぞ。

“準備”はしておきました。」



“準備”…?


私がロディを見上げると

ロディも察しがついていない様子で目を細めた。


私たちは、モートンに言われるがまま

ログハウスの中へと入ったのだった。



****



「ルミナさん、これを。」


研究室に通された私とロディ。

モートンは、私に向かって透明な液体が入った小さな小瓶を差し出した。



…何、これ…?



手にとって眺めていると

モートンは一呼吸おいた後、口を開いた。



「これは、レイ君に頼まれていた薬です。

透明な液体には、レイ君の魔力が入っています。」



えっ!


私とロディが目を見開くと

モートンは、少しトーンを落として続けた。



「この薬を飲めば、レイ君に関わる全ての記憶を消すことが出来ます。」



「!!」



はっ、とした。


数分前に言った自分の言葉が頭に蘇る。



“……私の記憶も…消してくれればよかったのに……。”



どくん!と心臓が鈍く音を立てた。


ロディが、険しい顔をしながらモートンに尋ねる。



「“レイ君に頼まれた”って、どういうことだ?」



モートンは、ロディに向かって答えた。



「レイ君がルオン君と戦いに行く前、彼は僕に、レイ君が不在の間、酒場に残していくルミナさんを守ることと同時に

万が一、レイ君が負けて帰って来なかった時に悲しむルミナさんから記憶を消して欲しい、と頼まれたんです。」



…!


私の頭の中に、今朝のモートンの声が響いた



“僕が昨日レイ君から頼まれたのは、ルミナさんを守ることだけではありませんから”



それって…この事だったの…?



全てが繋がると同時に、ぞくり、と体が震えた。



…レイは、もし自分が帰って来なかった時の事を考えて

私を楽にするために、自身の魔力を入れた
“記憶を消す薬”をモートンに託したってこと…?



モートンは、私を見つめてゆっくりと言った。



「レイ君に頼まれた使用状況は違いますが、これはルミナさんの苦しみを取り除くための薬です。

ルミナさんが自由に使ってください。」