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コツコツコツ……
二人分の足音が聞こえる。
ルオンと会った時にレイに引っ張られて帰った時は、ゆっくり並んで話すことはなかったし
レイと二人並んで街を歩くのは、彼と最初に会った日以来だ。
…でも、今はその時よりもレイと距離を感じる。
私は、ぐっ、と手のひらを握りしめながら、レイに声をかけた。
「あの……!」
「………何。」
低い声に、私は少し怯むが、明るく勤めて声を出す。
「えっと…私は、ルミナです。
父は魔法学者のラドリーです。」
「…あぁ。
お前のことは、昨日、ロディから聞いた。」
っ。
…自己紹介から話を繋げようとしたけど、バッサリ切られてしまった。
そういえば、ロディは一晩中レイと話したって言っていた。
今さら私のことを話したって、無駄かもしれない。
…最近の話題で迫ってみようかな。
「レイ!そ、そういえば、私が荒らしちゃった庭の花壇なんだけど…
新しい花の種を買っておいたの、気づいた?春になったらピンクの花が咲くやつなの」
「…へー。」
……。
“へー”って……。
レイが無愛想なのは今に始まったことじゃないけど…。
まぁ、よく考えてみるとこの状況は変だ。
記憶を無くしたレイからすれば、見知らぬ女の子に付きまとわれてるようなものだもんね。
迷惑に思われててもおかしくない。
でも…
私のことを、思い出して欲しい。
レイは、帰って来たら、嘘ではない自分の素直な気持ちを言うって私と約束してくれた。
私は……レイの気持ちが知りたい。
「えっと、レイ…!
パーティに招待された時、私にドレスを送ってくれたことは覚えてる?」
「…ドレス…?」
「…っ、じゃあ!
お父さんのことで泣いてる私を慰めてくれた時のことは…?」
「…記憶にないな。
俺にとって、お前とは昨日が初対面だし」
…!
私のことだけじゃなく、私と関わった記憶の全てが消えているんだ。
ズキン、と心が痛む。
まるで、手加減なしに握り潰されているような感覚。
…本当に、何も覚えてないんだ。
私は、つい、顔がうつむきそうになり
はっ!と体に力を入れる。
ダメ…。
ここで諦めるなんて。
私は、レイの記憶を戻すって決めたんだ。



