…!



“知り合い”



その言葉が、胸に深く突き刺さった。



…確かに、私たちは“知り合い”だったけど…

私はそれ以上のものだったって思ってる。


レイだって、ルオンに私のことを

“友達以上だ”って言ってくれたのに。



好きだって言ってくれたのは……

やっぱり、レイの嘘だったの…?



記憶を失ったレイを前にして

彼の本心など知る由もない。



…苦しいよ。

思い出してよ、レイ……!



私は、ぐっ、と溢れ出しそうな気持ちを抑えてカウンターから身を乗り出した。


はっ、とするレイに向かって声をかける。



「レイ…!お願いがあるの。

少しだけでいいから、私と話さない?」



「…!」



精一杯の気持ちを声に乗せてレイに伝える。


少し震えてしまって、動揺しているのが丸わかりだけど、そんなことは気にしてられない。


私の言葉に、レイは顔をしかめて呟いた。


「何で俺がお前とお喋りしなきゃいけないんだ。

思い出すことは何もないって言ってるだろ」



「お願い、少しでいいの…!」



私が懇願すると

レイは、はぁ、と息を吐いた。


グラスをしまい腰のエプロンを外したレイはカウンターから出てきて私の前に立つ。



…目の前にいるのは、ちゃんとレイなのに。

その目は、いまだに私を映していない。



ロディが、私たちを見て口を開いた。



「二人で街を歩いて来たらどうだ。

どうせ、酒場は夕方からだろ?」



…!


その提案に、私はレイの服を掴んで言った。



「レイ。一緒に行ってくれる…?」



すると、レイは、すっ、と私から距離をとって歩き出した。



「…少しだけだぞ。

行ってやるから、くっつくな。」



「!ありがとう…!」



言葉は冷たいけど、レイはやっぱり優しい人だ。

距離を取られたからって、傷ついていられない。


私は、ロディに見送られながらレイと共に酒場を出たのだった。