ロディは、ごそごそ、とコートの内ポケットに手を入れた。
そして、興味が湧いたようにグラスを拭く手を止めたレイに向かって“小さな機械”を取り出した。
ロディがカウンターに置いた“小さな機械”を私はまじまじと見つめる。
「ロディ、これは…?」
私がそう尋ねると、ロディは複雑な顔で私に答えた。
「これは、俺が、壊れたパソコンの代わりにレイに持たせた“通信機”だ。
…先に謝っとく。過去のレイと嬢ちゃんに」
えっ?
どういうこと…?
私がぱちぱち、とまばたきをすると
ロディが低い声で言葉を続けた。
「本当にすまない。
悪いとは思うが、これもレイの記憶を取り戻すためだ。」
レイが眉をひそめた、その時
ロディが無表情で通信機のスイッチを入れた。
────ピー、ザザザ………
小さな機械音がした瞬間
忘れるはずのない甘く優しい声が聞こえた。
『僕は、君を守るためだけの闇喰いだから。
僕の全てで、君を守るよ。』
!
それは、いつも私を守ってくれた
闇喰い“ギル”の声。
そのセリフは、何度も私の心を救ってきた。
小さな通信機から、ギルの声が聞こえる。
『僕はここで立ち止まることは許されない。背負った罪から逃げることも許されない。
…ましてや、闇に染まったこの手で君に触れることなど…許されるわけがない。」』
その時
私は、はっ!とした。
こ、このセリフって………
『…でも、無理なんだ。
心の奥底に押し込めた欲と、溢れてくる熱に僕はもう、抗えない。』
記憶の中の、比較的新しい会話が頭をよぎる
その時
心当たり程度だった“予感”を“確信”に変える言葉が酒場に響いた。
『もうルミナと離れることを選び取れない。
……俺は、お前が欲しい……。』
「「!!」」
私とレイの顔が一変した。
ま、まさか…
これって、レイと別れる時の会話?!
レイは目を見開いたまま硬直している。
私は、ロディに向かって慌てて尋ねた。
「な、なんでこの会話が録音されてるの?!」
「いやー、レイのバカ野郎がコートの内ポケットに通信機入れたままにしてたから、偶然録音されてたんだ。
…俺はリアルタイムで聞いてたけどな。」
「っ?!!!」
私は言葉が出なかった。
録音されてた上に、ロディに筒抜けだったの?!
…ロディ、通信機からコレが聞こえてきた時
どんな顔してたんだろう……。
通信機からは、レイの甘い声が流れ続ける。



