****


…キィ…


ロディに連れられて、酒場の扉を開ける。


すると、そこにはいつものバーテンの服を着たレイがいた。


カウンターでグラスを拭くその姿は、記憶の中のレイと全く変わらない。


ただ、感情のない薔薇色の瞳が私とロディをとらえた瞬間

私の胸に鈍い痛みが走った。



「…またそいつかよ。」



どくん…!


レイの冷ややかな声が酒場に響いた。


軽い、いつもの意地悪なトーン。


レイが私に優しく声をかけることなんて
ほぼなかったけど…

なぜだか、今は傷つく。



ロディは、私の前をコツコツ、と歩いてカウンター越しにレイに声をかけた。



「レイ、もう一度よく見ろ。

本当に嬢ちゃんの事を思い出せないのか?」



…!


その言葉に、私は微かな希望を胸にカウンターへと歩み寄った。


レイが、ふいっ、と私に視線を向ける。


薔薇色の瞳が私を映した。



「…レイ…。」



小さく、彼の名前を呼んだ。


しかし、レイは気まずそうに目を逸らし

ロディに向かってぶっきらぼうに答えた。



「思い出すも何も、知らねぇって言ってんだろ。

俺は女には興味ない。」



「何言ってんだ、お前。

あれだけ嬢ちゃんにデレデレだったくせに」



えっ…!


ロディの言葉に一瞬、胸が高鳴った。


ロディは、レイを見つめながら言葉を続ける。



「ギルの正体を秘密にしている間は必要以上に近づかないように努力してたみたいだが

お前はこの二年間と同居期間中、頭ん中の八割は嬢ちゃんのこと考えてただろ。」



そ、そうだったの…?


かぁっ!と、頰が赤くなる。


しかし、レイはポーカーフェイスを崩さない。



「はぁ…?

んなわけねーだろ。」



……。


心の中がどんどん黒い雲に覆われていくような感覚がする。


今にも、どしゃ降りに見舞われそうな雲行き。



すると、大きくため息をついたロディは
カウンターに腰掛けて口を開いた。



「…そこまで言うなら、仕方ないな。

“最終手段”だ。」



え…?