私は気持ちを切り替えようと

ガチャ、と部屋を出て廊下を左へ曲がった。



…ログハウスって、意外と広いんだな…。


そういえば、ここで、レイは暮らしてたんだよね……


……って。

私、ダメだ。


何をしてても、レイのことが頭から離れない。



はぁ、と息を吐いて、廊下を進む。



…洗面所って、どこだろう?



きょろきょろ、と辺りを見回すと

私の目に、部屋の前にかかる、あるプレートが映った。



“RAY”






プレートの名前に、視線が釘付けになる。


あれって…“レイ”だよね?

もしかして、あそこがレイの部屋だったところ…?



私は、ごくり、と喉を鳴らして

ゆっくりとその部屋へと歩み寄った。



…ギシ…



廊下が小さく軋む。


ノブに手をかけて、扉を開けると

そこは、木の素材で出来た家具が並ぶ部屋だった。


キィ…、と扉を押して中へと足を踏み入れる。



…レイが出て行った時のままにしてあるのかな…?



すると、その時

ベッドの上に誰かが寝ているのが目に入った。



っ!



一瞬、驚いて体をこわばらせるが

その寝顔を見た瞬間、私は、はっ!と息を呑んだ。



「…ルオン…?」



すー、すー、と定期的な呼吸をしているのはルオンだった。


目を閉じたまま、小さく寝息を立てている。



…一瞬、レイかと思った…。



サラサラの黄金の髪。

閉じられている瞳の色は見えない。



私の頭の中に、昨日の記憶が蘇る。



…そういえば、昨日はロディに車で送ってもらって

モートンが車に乗せていたルオンを抱き上げてログハウスに運んだんだ。


全身傷だらけだけど、苦しそうに顔を歪めることもなく、すやすやと眠るルオン。



シンの魔力で、朝になっても起きないんだ。



「……ルオン。

昨日、レイと何を話したの……?」



小さく声をかけるが、起きる気配はない。


…当たり前だ。

シンが解けない限り、ルオンは“永遠の眠り”から目覚めることはない。



その時、遠くからモートンが私を呼ぶ声がした。



「……ルミナさーん?」


「!」



はっ!と我に返った私は、急いで部屋を出た。



パタン、と扉を閉めると、

近くにあった洗面所に駆け込んで水を出す。



…ぱしゃん…!



私は、冷たい水を手ですくい、泣いていないにもかかわらず

まるで涙の跡を消すように顔を水で洗い流したのだった。