体が、カタカタと震えだす。


そんな私を見たロディが、レイに向かって声を上げた。



「レイ、お前……!

本当に嬢ちゃんの事を忘れたのか…?」



すると、レイは私を一瞥して

感情のない声で答えた。



「…知らねぇよ、そんなヤツ。」






目の前が真っ暗になると同時に

頭の中が真っ白になった。



“知らねぇよ、そんなヤツ”



レイの声が、頭の中でこだまする。


ロディが困惑した顔で私を見つめた。


レイは、スタスタと歩いて酒場の奥へと消えていく。


…もう、何も考えられなかった。



がくっ!



「!嬢ちゃん!」



足から崩れ落ちた私を、ロディが支える。


ゆっくりとしゃがんだ私たちの側に、モートンが険しい顔で座り込んだ。


ロディが、モートンの顔を見ながら口を開く。



「レイは、シンをかけられたルオンを背負って帰って来たんだ。

何にも変わりなくて、いつも通りだったはずなのに……」



その言葉に、モートンは眉を寄せて呟いた。



「…もしや……。

“シンのリバウンド”でレイ君からルミナさんの記憶だけがなくなったのかもしれません。」



え…?



どくん!


心臓が鈍く鳴った。


サァ…、と全身の血の気が引く。



“シンのリバウンド”…?



モートンは私とロディを見つめながら
話を続ける。



「禁忌の闇魔法は、その人の“一番大切なもの”がリバウンドとして犠牲になります。

レイ君にとって、一番失いたくないものは、体でも、魔力でも、命でもなかったってことです。」



レイが、“一番失いたくないもの”



「…それが、“嬢ちゃん”だったってことか?」



ロディの言葉に、モートンが無言で頷いた。



私…?


命よりも…大切なもの…?



モートンが、低い声で呟いた。



「…ルミナさんが、レイ君の中から消されたんです。」



その声は、秒針の音しか聞こえない酒場に悲しく響き

ここに、私のよく知る“レイ”が帰って来ていないことを告げていた。



第4章*完