トン!!


手加減をしているが、強い力でレイは私を突き飛ばした。


っ!


体が、ぐらり、として、レイとの間に距離が生まれる。



…え…?



私が動揺してレイを見上げると

ずっと顔を伏せていたレイが、ふっ、と顔を上げた。


その顔は、いつもと同じレイだった。


しかし、私を映すその瞳は

私の知っている碧色の瞳ではなかった。



ギラリ、と、深紅の薔薇色の瞳が私をとらえた。


それは、ギルとも違う

まるで威嚇するような瞳だった。



ぞくり、と体が震え

嫌な予感が頭をよぎった時


レイの、聞いたこともないような冷たい声が酒場に響いた。



「…誰だ、お前。

急に抱きついてくんじゃねーよ。」



「!!」




その瞬間。


私は呼吸さえも忘れた。



今、なんて……?



するとその時

酒場の扉が勢いよく開いて、ロディが中へと入ってきた。


はっ!とした瞬間

レイがロディへと振り返って口を開いた。



「おい、ロディ。

酒場に“ガキ”が入り込んでたぞ。ちゃんと鍵を閉めとけよな。」



「…は……?」



ロディも、レイの言葉を聞いて言葉を詰まらせる。


私は、状況が飲み込めないまま

恐る恐る口を開いた。



「…レイ?何を言っているの…?

私、あなたと一緒にここに住んでるでしょう…?」



すると、レイは私を、ふっ、と見下ろして、小さく睨みつけた。


その瞳は、私を見ているようで見ていない。


レイは少しの沈黙の後

視線を逸らさず言い放った。



「何言ってんだ?ここは俺一人の酒場だ。

ガキはさっさと帰れ。」






ガツン!と、鈍器で頭を殴られたような気がした。


レイとの記憶が全てが崩れ去る。



嘘……でしょう…?



レイは、冗談を言っているようには見えない。

本当に、私を初めて見るような視線。



私のことが……

分からないの…?



その時、モートンがカウンターから出て
レイの前へと歩み寄った。



「レイ君、本気で言っているんですか?」



レイは、顔色一つ変えずに答える。



「あ…?モートン来てたのか。

お前の連れならさっさと一緒に帰ってくれ。今日は疲れてるんだ。」



モートンとロディは、それを聞いて、目を見開く。


私は、ばっ!とレイにしがみ付いて声をかけた。



「ねぇ、レイ!私よ、ルミナよ!!

忘れちゃったの…?!」



彼の腕を掴み、顔を見上げるが

レイの冷たい薔薇色の瞳は変わらない。



「レイ、お願い思い出して!

一体、どうして私のことを………」



と、次の瞬間

レイは、ぶん!と私を振り払った。



「っ!」



倒れそうになった体を、とっさに走り寄ったロディが支える。



…今……

何が起こって………