俺を見上げる綺麗な瞳が、微かに揺らめいた

ぴくり、と反応した“弟”に、俺は静かに言葉を続けた。



「俺が研究所を逃げ出したせいで、お前が俺の犠牲になってしまった。

お前に復讐の道を選ばせたのは、俺だ。」



俺の口から紡がれた言葉に、みるみる奴の力が抜けていく。


俺に押し倒されている、ボロボロの少年は

もう、“エンプティ”ではなかった。


俺は、“ルオン”に向かって話し続けた。



「お前に、大きな罪を背負わせたのも、全部俺の責任だ。

二年前のことも、今日のことも…俺は一生、死ぬまで忘れない。」



完全に魔力を消し、俺を混じり気のない綺麗な瞳で見上げるルオンに

俺は小さく、掠れる声で囁いた。



「…ルオン。

…助けてやれなくて、ごめんな。」



「!!」



その瞬間

ルオンの顔が、ぐしゃっ、と、崩れた。



…!



俺が目を見開いた時

ルオンは、子どものように目に涙をいっぱい浮かべて小さく呟いた。



「……ずるい……だろ…。

最後の最後で、やっと名前を呼ぶなんて…。僕は、ずっと呼んできたのに…。」







頭の中に、ルオンの声が蘇る。



そうだ、こいつは…


俺と会った時から、今までずっと

俺を“兄さん”と呼び続けていた。


弱々しい声が、俺の耳に届いた。



「……今さら謝ったって、遅いよ…。

ばか………。」



…。


俺は、ぐっ、と眉を寄せた。



…覚悟は、出来てる。



ルオン。

お前の命は奪わない。


やっぱり、俺には、“奪えない”よ。



一瞬、頭にルミナの顔がよぎった。



…ごめんな、ルミナ。


俺は、シンを使うよ。


でも、必ずお前の元に帰ってみせる。


…どんなリバウンドが、俺を襲おうとも。



俺は、パァッ!とさらに魔力を放出した。

俺の瞳が、鈍く光る。



ルオンが、小さく目を見開いた。


そして、全てを察したように呟いた。



「…本当、甘いよね。いつもの闇魔法なら、ノーリスクなのに。

何の心配もせずに、ルミナの元に帰れるのに。」



ルオンの頬に、一筋の涙がつたった。



「だから………兄さんなんて嫌いなんだ。」



言葉とは裏腹に、その声は今まで聞いた中で一番穏やかで、優しい響きだった。


その声が俺の耳に届いた瞬間

二人の体をシンの魔力が包んだ。


辺りに、漆黒の魔方陣が広がり

そこで記憶が、プツリ、と途切れた。



《レイside終》