エンプティが俺から奪った刃の攻撃魔法を、倒れる俺に向かって一気に放った。
禁忌を使ったぶんだけ、その威力は俺と桁違いに強く、鋭い。
俺は微かに放出した魔力で急所を守るが、エンプティの刃は容赦なく俺を切りつけた。
「ぐ……っ!」
視界に、飛び散る鮮血が見えた。
俺は、その先に見えるエンプティをまっすぐ見つめる。
と、次の瞬間
奴が、ぐらり、と体をよろめかせた。
!
今だ…!
その時
俺は反射的に瞬間移動魔法でエンプティの背後に回る。
「っ?!」
エンプティが目を見開いた瞬間
俺は一気に魔力を放出した。
ビリッ!!
辺りの空気が俺の魔力と共鳴して大きく震える。
一瞬の隙を突いた俺は、そのまま地面に
エンプティを押し倒した。
自分に残る魔力を一気にエンプティへと放出する。
エンプティは、ぐっ、と顔を歪めた。
奴は必死に抵抗しようとするが、俺の魔力に威圧され、攻撃魔法どころか身動きすらとれない。
エンプティは、はっ!としたように俺を見上げて悔しそうに口を開いた。
「まさか…僕を魔力で威圧して動きを止めるために、今まで攻撃魔法を使わずに魔力を溜めてたの…?!
僕が禁忌のリバウンドを受ける一瞬の隙を狙って…?」
「あぁ…。“肉を切らせて骨を断つ”って言うだろ。
俺の勝ちだ、エンプティ……!」
いつも、タリズマンが使うこの“手”。
俺も、何度これに苦しめられたことか。
「この時を狙って、わざと僕の闇魔法を受けたってわけ…?
僕が禁忌の闇魔法を使わなかったかもしれないのに…。」
「俺にはルミナっていう勝利の女神がついてんだよ。
絶対お前は闇魔法を使うって賭けてたからな。」
「…本当にバカだね……。
死ぬかもしれなかったのに……。」
俺は、ぐっ、とエンプティの手首を掴んだ。
エンプティは、みるみる瞳の色を失っていく。
俺は、エンプティを見下ろしながら
すっかり戦意を喪失したエンプティに向かって小さく言った。
「兄弟喧嘩にしてはやり過ぎたな、お互い」
「……っ。」
エンプティが、悔しそうに顔を歪め
俺を威嚇するように言った。
「…はやくトドメを刺してよ。
どうせならシンじゃなく、いつもの闇魔法で僕を消して…!」
沈黙が辺りを包む。
ポタ…、と俺の頬の傷から流れ落ちた血が
奴の頬に落ちた。
俺は、ゆっくりと呼吸をした。
そして、心の奥底に押し込めていた記憶とともに
はっきりと、“彼”の本当の名前を口にした。
「……ルオン。」
「!」



