…!
今の声のトーンは、エンプティのものではなかったような気がする。
もっと昔の……
以前の“弟”の声。
エンプティは、ぐっ、と手を握りしめた。
「…僕に償いでもするつもりなら、兄さんのもの一つぐらい僕にちょうだいよ。」
「…シンはやらねぇぞ。」
「シンは奪うの前提だから。
それ以外のやつ。」
「……金はねぇぞ。」
すると、それを聞いたエンプティが
ニヤリ、と笑って呟いた。
「そんなんじゃないよ。
まぁ、僕が勝ったら、兄さんの許可は取らないで勝手にもらうことにするよ。」
「……っ?」
は…?
どういうことだ…?
顔をしかめると、エンプティは小さく笑みを浮かべて言葉を続ける。
「決めた。兄さんが深い眠りについた後、僕はルミナをかっさらう。
もちろん兄さんとは面会謝絶。絶対お見舞いしないから。」
「は…?」
イラッ……!
一気に体に力が入った。
エンプティは、俺の反応を楽しむように続ける。
「外見だけなら僕は兄さんと瓜二つだし。僕は兄さんより紳士的だから、ルミナもすぐ僕に乗り換えると思うよ。
兄さん、安心して早く僕に倒されてくれない?」
「ふさげんな……っ!」
俺は一気に魔力を放出して
エンプティに向かって地面を蹴った。
一瞬で距離を縮めた俺は、はっ!と目を見開いたエンプティを力一杯殴りつけた。
「っ!!」
ドッ!!と、地面に叩きつけられたエンプティは、瞳を鈍く輝かせて叫ぶ。
「ルミナが絡んだ途端、それ?
今まで散々僕に手加減してたくせに…!」
「それとこれとは別問題だろーが!!
この流れでかっさらうとか言うか?!普通!ルミナはやらねぇよ、一生俺のもんだ!」
エンプティは、一気に魔力を放出して瞳を輝かせる。
魔力で作られた鋭い獣の爪のようなものが俺に向かって襲いかかってきた。
「兄さんが魔力を使い果たしたら、僕は容赦なくシンを奪う!
もう手加減なんかしてる余裕はないよ!」
「っ!」



