俺が立ち上がって険しい顔でエンプティを見つめると

奴は、瞳を鈍く輝かせた。





あの瞳は……!



とっさに体を後ろに引いた

次の瞬間。



エンプティは、数分前に俺が放った魔力の刃を俺に向かって放出した。



「っ!」



反射的に腕を突き出して刃を飛ばし応戦するが、エンプティは瞳はどんどん色濃くなっていく。


消しきれなかった刃が、俺の体を切り裂いた。


全身に痛みが走る。


その時、一瞬エンプティの体がよろめいた。



…!


やっぱり、今のは禁忌の闇魔法…!



俺は、隙を突くように一気に距離を縮めた。


エンプティが、はっ!として顔を上げた瞬間

奴の体に俺の蹴りが直撃した。



ゴッ!!



エンプティは、衝撃を受け止めきれずにそのまま数十メートル飛んでいく。


ズサササッ!と地面に倒れ込むエンプティに向かって、俺は一気に襲いかかった。



これで、勝負を決める…!



俺がエンプティに向かって拳を振り上げた

次の瞬間だった。



俺と同じ碧色の瞳が、まっすぐ俺をとらえた。


言葉ない空間で、二人の視線が交わる。


禁忌のリバウンドで微かに弱々しく揺れるその瞳に、俺の頭の中に一瞬の躊躇が生まれた。


かつての自分が、エンプティと重なって見えた。



すると、俺の動揺を見抜いたように

エンプティが俺に向かって足を蹴り上げる。



「っ!」



しまった…



ぞくり、と体が震えた、その時

奴の蹴りが俺をとらえ、体に鈍い痛みが走った。



ドォン!!



思いっきり研究所跡地の壁まで飛ばされる。


その壁を突き破り、木の幹に体を打ち付けられると

俺の口から「がはっ…!」と、小さな呻き声が漏れた。


そのまま、ずるずると地面に沈む。



頭がぐらぐらして、視界が霞んだ。

飛びそうになる意識を必死で呼び戻す。



…くそ……

迷いなんて、今さら顔を出してくれるなよ…



ゆらり…、と、エンプティが立ち上がった。


荒い呼吸をしながら、俺に向かって口を開く。



「…やっぱり…兄さんは甘いね。

なんで今、僕に攻撃しなかったの…?絶好のチャンスだったのに……。」



…っ。


俺は、歯を食いしばって立ち上がる。


木の幹にもたれかかるようにしながら、エンプティを見つめた。


奴は、内なる闇の魔力を瞳の奥に宿し言葉を続けた。



「僕は、禁忌の闇魔法を使ってでも、兄さんからシンを奪う。

僕は、この国にいる全ての魔法使いにシンをかけるんだ。魔法を使って正義ヅラしてるタリズマンも含めてね…!」







エンプティの“復讐”。


それは、研究所に囚われていた時代から自身の中につのった魔法使いへの恨みを晴らすこと。


この世から、全ての魔法使いを消すこと…!



俺はエンプティを見つめながら口を開いた。



「お前…そんなことしたら、自分がどうなるか分かってるのか。

いくら強い魔力を持っていたって、シンのリバウンドで命を落とすかもしれない。死ななくたって、地獄のような苦しみが永遠と続くかもしれないんだぞ!」



「地獄のような苦しみなら、とっくに受けてきた!

兄さんだって、分かるだろ!!」