俺は、ゆっくりと前へ進み

エンプティから五メートルほど離れたところで立ち止まった。


無言で視線を交わし合っていると、エンプティが目を細めて言った。



「今日は、“ギル”の姿じゃないんだね。」



…!


俺は、その言葉に眉を寄せて答える。



「お前が余計なことをしたせいで、全部ルミナにバレたからな。

タリズマンには、もうとっくに正体知られてるし。」



「そっか。もうギルの姿になる必要ないんだ?」



エンプティは、くすくすと笑って真っ直ぐ俺を見た。


瞳に、一瞬鈍い光が灯る。



「本気で戦う気になった?

今まで積み上げてきたものを全部壊されて…僕のこと、憎いでしょ?」



俺は、そのエンプティの言葉に、微かに肩を震わせた。



“今まで積み上げてきたものを全部壊されて”


…確かにそうだ。


ルミナにバレる以前に、タリズマンにバレた時も、こいつが原因なんだ。


俺は、まんまとこいつの仕掛けた罠にはまり続けてきたってことか。



沈黙が辺りを包む。



…“憎い”?



俺は、エンプティの問いかけに

余裕のある笑みを浮かべて答えた。



「確かにお前にはムカついてるけど、お前のお陰でルミナとキス出来た。

そこだけは感謝してる。」



「……………。」



エンプティは俺の言葉に一瞬目を見開いたが

すぐに、ぐっ、と眉間にシワを寄せて軽蔑するような視線を俺に向けて言った。



「…何?まさか、ノロケに来たの?

心の底からウザいんだけど。」



「んなわけねぇだろ、バーカ。」



呆れたような表情のエンプティに、俺は低く言い放った。



「…決着をつけよう、エンプティ。」



「!」



ふっ、と、その場の空気が変わった。


ピリピリとしたオーラが辺りを包む。


静まり返った研究所跡地に、エンプティの低い声が響いた。



「僕をいつもの闇魔法で消し去る気?

兄さんは、リスクなしで禁忌の闇魔法を使えるもんね。」



敵意むき出しでそう言ったエンプティに、俺は落ち着いた声で静かに言った。



「いや。お前にあの闇魔法は使わない。

“シン”で、ケリをつける。」



「?!」