闇喰いに魔法のキス



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《レイside》



「ロディ、もうここでいい。

車止めてくれ。」



キキィッ…!



俺の言葉に、赤い車はブレーキの音を立ててその場に停車した。


辺りは木に囲まれた道。

人気はない。


ロディが、車のサイドブレーキを入れて口を開いた。



「まさか、ここにまた来ることになるとはな

…この先にエンプティがいるってのか?」



俺は、無言で頷く。


目の前には、先へと続く一本道。


そしてこの先は、全ての“始まりの場所”。


…エンプティの奴…。


こんな場所に俺を誘導するなんて、悪趣味だろ。

本当に性格悪い。


俺は、ドアに手をかけながら言った。



「…じゃあ、行ってくる。」



「ん。レイ、日付変わる前に帰ってこいよ」



「お前は俺のお母さんか。」



俺の言葉に微かに笑うロディに、俺は念を押すように言葉を続けた。



「ロディ、俺を置いて帰るなよ?

ここに戻ってきて車がなかったら、俺泣くからな。」



「…はいはい、早く行け。」



…こんなロディとのくだらないやり取りも、これで最後かもしれない。


目を閉じて顔を伏せるロディの横顔を目に焼き付ける。


俺は、心に残ったわずかな迷いを振り切るようにドアを開けて外に出た。



バタン。



ドアを閉める。


もう、振り返ることはない。

向かうは、道の先に待つエンプティの元。


小さく呼吸をして、俺は真っ直ぐ歩き出した。


この先、何があろうとも

俺は立ち止まらない。


必ずダウトとの戦いをここで終わらせる。

酒場で待つ、ルミナの為にも。



足を運ぶにつれ、辺りの木々が少なくなっていく。

地面が荒れ果て、草花が視界から消える。



……ザッ……。



目の前が開けたその時

崩れかけた壁の前に立つ、一人の少年が目に入った。


月の光に、黄金の髪が照らされている。



サァ…ッ!



辺りを冷たい風が吹き抜けた瞬間

少年が、ふっ、とこちらを見た。



「…やっと来たね、兄さん。

今日は観客はいないから安心して。」



「野郎と二人っきりで何が楽しいんだ。

わざわざ“こんな場所”に連れてきやがって」



俺の言葉に、エンプティは、くすり、と笑って答えた。



「“研究所跡地”。どれだけ魔法を使っても、辺りに住宅はないしタリズマンもいない。

…思う存分戦えるよ?」



「兄弟喧嘩には、うってつけってことか。」



「うん。兄さん、無駄に魔力持ってるから。

周りの建物破壊して、苦情や請求書がきたら困るし。」



…生意気なガキだな、ほんと……。