ブロロロ…


赤い車が夜に包まれた街を走る。


月明かりに照らされて、タバコをくわえたロディの横顔が窓に映った。



…エンプティの魔力を追って走っているけど一向に奴との距離が縮まらない気がする。


エンプティも俺たちが追ってきていることに気づいて、どこかへ誘導しようとしてるのか…?



その時

俺の頭の中にエンプティの顔が浮かんだ。



嫌というほど、俺とそっくりな顔。


魔力も、俺と等しいレベル。


実際、研究所跡地でエンプティに黒いイバラで攻撃された時は、魔力を七割以上放出しないと抜け出せなかった。


…あいつと戦えば、無傷では済まない。


エンプティは、俺を始末するつもりでシンを奪いに来る。



俺は、ふぅ…、と小さく呼吸をして目を閉じた。



生半可な気持ちでは、あいつには勝てない。


…やるしか、ないよな。



俺は、ゆっくり目を開けると

ハンドルを握るロディに声をかけた。



「ロディ、聞いてくれ。」


「…ん?」



小さく答えたロディに向かって、俺は言葉を続ける。



「…俺は、エンプティに“シン”をかける。」



「!」




ロディは、ハンドルを握りながら少し眉を動かした。


黙って、俺の話を聞いている。



「エンプティの命は奪わないことに決めてたんだ。

…あいつが、研究所を廃墟にした時から。」



車内に、沈黙が流れた。


ロディが、目を細めながら言った。



「責任…感じてるからか?」






低く呟かれた言葉に、俺は小さく肩を震わせた。



“責任”



確かに、そうだ。


俺が研究所から逃げ出さなければ、“エンプティ”は誕生しなかった。


“二号”がいることにもっと早く気付いていれば、あいつを助けることが出来たはずだ。


いつもの闇魔法でエンプティを簡単に始末してしまったら、あいつに対しての償いにはならない。


もちろん、エンプティに負けるわけにはいかないけど

俺も、リスクを負わなくてはいけないんだ。


“シンのリバウンド”というリスクを…。



俺は、タバコを灰皿に押し付けたロディに向かって話を続けた。



「もし、魔力を全て使い切って、俺の瞳が輝きを失っても…この体が使い物にならなくなっても

俺は、必ずルミナの元に帰るつもりだ。」



自分の決意を言葉にすることで、その意志を心に刻みつけた。


俺は、少しの沈黙の後

軽く顔を伏せてロディに言った。



「でも…もし、俺に何かあったら…。いや、百パーセント何かあるけど……

…そん時は、ルミナを頼むよ。」



「…!」



ロディが、はっ!として目を見開いた。


俺は、ロディの顔をミラー越しに見つめながら言葉を続けた。



「ロディ。本当に、今までありがとうな。

ラドリーさんに頼まれたからって、無理やり俺の面倒みることになって嫌だったろ?」