俺は言い訳しようとしたが

ロディは本気で冷たい瞳をしている。


………。



少しの沈黙の後

俺は、微かに目を細めて口を開いた。



「…別に、舌は入れてねぇけど。」


「ディープかどうかの問題じゃねぇよボケ!

エンプティよりも先に俺が始末してやろうかこのエロガキ…!」



ギロ、と鋭い目つきで睨まれた俺は

開き直りの発言も軽く潰される。



ドス黒いオーラを放つロディに、俺は動揺しながらも言葉を続けた。



「俺だって、分かってたんだ。

俺が気持ちを伝えたままいなくなったら、一生ルミナを縛り付けることになることも。

今までギルとして一線引いてきた意味がなくなることも。」



「!」



ロディが、微かに目を見開いた。


俺は、顔を伏せながら呟く。



「…でも、やっぱり、後悔を残したくなかったんだ。

“嘘”という形でもいいから…ルミナに伝えたかった。」



しぃん…、とその場が静まり返った。


俺は、そのままロディを直視出来ずに顔を伏せている。


…やっぱり、怒ってるよな。


当然だよ。

ラドリーさんとの約束を破ったんだから。


すると、その時

俺の目の前に、ロディが歩み寄った。


…え?


はっ、とした瞬間

俺の額に激痛が走った。



べしっ!!



「痛ッ!!」



ロディのデコピンは俺の脳みそを揺らすほどの威力。


俺が反射的に額を押さえて痛みに悶絶していると

頭上からロディのいつもの低い声が聞こえた。



「…今回はこれでチャラにしてやる。」



…っ。



俺が顔を上げた瞬間

ロディが軽く俺の頭に手を乗せた。


ロディは、俺の気持ちを理解したかのような少し悲しげな瞳をしていた。



…話せるのがこれで最後かもしれないから。

“次”の約束なんて、出来ないから。



だから、俺は伝えたんだよ。

“本当の気持ち”を、“嘘”と偽って。



ロディには、そんな俺の心の声も聞こえたんだろうか。


軽く俺の頭を小突くと

ロディは、すっ、と車に乗り込んだ。



「…早く隣に乗れ、レイ。」



“相棒”の、隣。



「…あぁ。」



再びタバコをくわえたロディに返事をして

俺は助手席に乗り込んだ。


自身の迷いをかき消すようにアクセルを強く踏み込んだロディは

夜に包まれた街中へ向かって車を走らせたのだった。