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《レイside》
…キィ。
酒場の扉を開けると、そこには見慣れた赤い外車が停まっていた。
車のドアにもたれかかるようにして、ロディがタバコの煙を吹かしている。
俺が酒場の扉を閉めた、その時
ロディが俺に声をかけた。
「…準備はいいか。」
短い言葉の中に、覚悟が問われた。
俺は、無言で頷く。
…たとえ、この車に乗るのが最後になろうとも…
俺はもう迷わない。
自分の手で、ダウトとの戦いに終止符を打つと決めたんだ。
俺がロディの横まで歩き、車に乗り込もうとドアに手を伸ばした
その時だった。
…ガシッ!
!
ロディが、いきなり俺の腕を掴んだ。
ロディは、いつもの数倍何を考えているのか悟らせない表情で
俺を見ずにまっすぐ酒場の方を向いている。
「…な、何だよ。」
俺が小さく尋ねると、ロディはタバコを反対の手の指で挟みながら
俺に向かって爆弾発言をした。
「まずは謝っとく。
俺、お前と嬢ちゃんの会話を全部聞いてた」
「え」
一瞬、何を言われたか理解できずに固まった。
そして一秒後、全身が、かぁっ!と熱くなる。
「は、はぁっ?!!!
ま、まさか、“会話”って…?!」
「お前、胸ポケットに通信機入れっぱなしだったろ。
…全部、筒抜け。」
っ!!!!
う、嘘だろ!!
全部って?
まさか、あの恥ずかしい言葉の羅列全て?!
ふ、ふふふ、ふざけんなっ!
プライベートの侵害だ!!
俺が怒ろうとした、次の瞬間
ロディはタバコを地面に落とし
グッ!と足で踏みつけた。
ロディの足元から、火が揉み消される音が聞こえた。
びくっ、と体が震える。
その時
今まで俺と目を合わせなかったロディが
ゆらり、と俺を見た。
その目は、まるで殺し屋の瞳。
え、なんで?
なぜロディが怒り心頭なのか。
その理由はすぐ分かった。
「レイ、てめぇ…。
俺はお前に、“嬢ちゃんには手を出すな”って言ったおいたはずだよな…?」
「っ!!!」
ロディが放った言葉を聞いて、俺は全てを察した。
ま、まさか…?
いや、まさかとかじゃない。
完全にルミナとキスしたことバレてる…ッ!
重なった唇の間から漏れたルミナの声まで筒抜けかよ。
え、マジ?
いや、俺もダメだと思ったよ?
でもさ、あの流れは不可抗力っていうか…。



