!
レイの声が、切なげに私の耳に届いた。
私たちは、無言で見つめ合う。
私は、視線を逸らさずに口を開いた。
「……今のも、嘘……?」
「!」
その時
レイが小さく呼吸をした。
心の動きが、私に伝わる。
レイの頬が、微かに赤く染まった。
…!
彼から、目が離せない。
レイの冷たい手が、私のうなじに触れた。
私が息をした、その瞬間
レイの碧色の瞳が閉じられた。
甘い予感とともに
レイの影が、私の影と重なった。
「……んっ…」
柔らかなレイの唇が、私の唇に触れる。
それは、一瞬の出来事で
私が目を見開いた瞬間にレイは私から離れて背を向けた。
「……ばーか。」
レイの小さな声が、確かに私の耳に届いた。
一気に、体の力が抜ける。
へなへなと座り込んで立てない私を横目で見たレイは、微かに口角を上げて階段を下りていく。
「…っ、レイ…!」
私は、遠ざかる背中に向かって叫んだ。
「帰ってきたら、ちゃんと聞かせて…!
嘘じゃない、レイのほんとの気持ち…!」
次の瞬間
レイは、ぴたり、と立ち止まった。
そして、少しだけ振り返って私を見た。
「…ん。」
レイは、小さくそう答え
優しく私に笑いかけた。
その横顔は、見惚れるほどかっこよくて
初めてギルと会った時の横顔と重なって見えた。
…キィ……
────パタン。
離れと酒場をつなぐ扉が閉められた後
私は、いつまでもレイの出て行った扉を見つめていた。
見えなくなった背中を焦がれるように。
ずっと、ずっと、レイのことだけを考えていた。
廊下の窓から差し込む月明かりが、優しく私を照らしていた。



