それは、優しく、包み込むようなギルの声。

いつか聞いた、ギルのセリフ。


その言葉が、全ての答えを物語っていた。


止まったはずの涙が流れた。


私は泣き声を必死でこらえるが、きっとレイは気づいている。


レイは、ギルの声で言葉を続けた。



「僕はここで立ち止まることは許されない。背負った罪から逃げることも許されない。

…ましてや、闇に染まったこの手で君に触れることなど…許されるわけがない。」



「…っ!」



初めて、語られた本音。


切なげなギルの声が扉の向こうから聞こえる。



「…でも、無理なんだ。

心の奥底に押し込めた欲と、溢れてくる熱に僕はもう、抗えない。」



どきん…!



ギルの声が、心の奥まで入り込んでいく。

体の芯が溶けて、頭がくらくらする。



その時

もう隠しもしない、声に宿った熱を伝えるように

掠れた甘い声が扉越しに届いた。



「もうルミナと離れることを選び取れない。

……俺は、お前が欲しい……。」



…!



それは、聞き慣れた“悪魔”の口調。

ギルの声なのに、浮かぶのは碧眼の彼の顔。



…ガチャ……



無意識にドアノブを回した私の手。



扉の向こうにいたレイと目が合った瞬間

力強い腕が私を抱き寄せた。



「っ!」



ぎゅう…!


温かな体温が服越しに伝わる。


力任せではない、強く抱きしめたいのを必死で我慢するような強さ。


…それは、夜の街でギルに抱きしめられた時の感触と同じ。



「…レイ………」



私は、掠れる声で彼の名を呼んだ。


私の耳元で、余裕をなくしたレイの声が聞こえた。



「……ごめん。ごめんな、ルミナ。

俺、お前に嘘ついて、泣かせてばっかだ。」



「ううん、いい。もう、いいの…。

話してくれて…ありがとう……っ。」



レイは、黙って抱きしめる力を強くした。


私の頬に、最後の涙がつたった。


レイは、優しく私の目元をぬぐう。


至近距離で重なったレイの視線には、あられもない熱が宿っていた。



「…ルミナ、聞いて。」


「……なに…?」



レイは、私を見つめたまま

真剣な表情で言葉を続けた。



「俺は今から、エンプティと決着をつけに行く。」



「!」



どくん…!


レイの言葉に、私は体が震えた。



「もし、ここにダウトが来た時のことを考えて、俺の方で“事前作”は打ってある。

何が起こっても、ルミナは大丈夫だ。」



レイは、表情を変えずにそう続けた。


私は、その言葉に心が揺れる。



…最後の戦いに、行くつもり…?

私を置いて…?



私は、とっさにレイの首元に抱きついた。


レイが短く息をした音が耳に届いた瞬間

私は彼を抱きしめて声を絞り出す。



「行かないで……。」



「……っ。」