****


静かな、離れの部屋。


涙はもう止まったが、頭が痛む。


窓の外を見ると、いつの間にか薄暗くなっていた。


…日が落ちるのが早い。


まだ午後五時だというのに、夜が街を包んでいる。



……ギシ。







扉の向こうから、階段の軋む音が聞こえた。


足音は、どんどん近づいてくる。


落ち着いたはずの気持ちが乱れ始めた。



ぎゅ…、と袖を握った、その時

部屋の前で足音が止まった。


扉越しに、低く、掠れた声が聞こえた。



「…ルミナ。」


「…っ。」



レイ…。


私は、扉にすがりつくように体を寄せた。


ドアノブに手をかける勇気は出ない。


…声を聞いただけで泣きそうなのに、顔を見たら、もう、何も言えなくなる。


これ以上、弱いところを見せたくないのに。


レイを…困らせたくないのに…。



「ルミナ。

…このままでいいから、聞いてほしい。」



レイは、静かにそう言った。


きっと、レイは扉のすぐ側に私がいることに気がついている。


私が小さく呼吸をすると

レイは、ゆっくり話し始めた。



「…俺は、ずっと臆病で、ずるい奴だった。」



私は、小さく目を見開く。



「ギルの正体がバレれば、ラドリーさんの過去も話さないといけなくなる。

…こんなことは綺麗事だって思うかもしれないけど…ルミナを傷つけたくなかったんだ。」



…だから、ずっと私に嘘をつき続けていたの…?


レイは、小さく呼吸をして続ける。



「闇喰いの始まりを知ったルミナは、きっとギルを嫌いになると思った。

…だけど、ルミナは“ありがとう”って言ってくれた。…あの時、柄にもなく、泣きそうになっちまった。」



…!


私は、扉に頬をつけて目を閉じる。


レイの声は、少し震えていた。



「俺は、ルミナにギルの存在を知られないようにして、ずっと裏で生きていくつもりだった。

…でも、ルミナに初めて会った日。完全にお前を突き放すことが出来なかった。」



その時、扉の隙間から光が漏れた。

ポゥッ…、と温かい光が離れに入る。


私が目を見開いた、次の瞬間

私の耳に届いたのは、先ほどまでの低い声ではなかった。



「僕は、君を守るためだけの闇喰いだから。

僕の全てで、君を守るよ。」



「…!!」