ルオンは、小さく目を見開いた。


私の返答が予想外だったみたいだ。



…確かに、今すぐにでもギルのことを知りたい気持ちもある。


でも、ギルが私に隠しているなら、無理に聞こうだなんて思わない。


ギルが正体を明かすつもりがないのなら

私はそれでいい。



しかし、ルオンは、ふっ、と笑うと私を惑わすように言った。



「そんなことを言ってると、ギルは正体を明かさないまま僕と戦うことになる。

…二度とルミナの前にギルは現れないかもしれないよ。」






…今、なんて…?



私が、はっ!とした瞬間

心の動揺を見透かすようにルオンが続けた。



「僕は相手の魔法を奪い取る魔法が使えるんだ。

ルミナがギルを止めないと、僕がシンを奪ってギルを始末しちゃうよってことさ。」



!!


ギルが…始末される…?


この世からいなくなるってこと…?



その時、ルオンが、すっ、と私に近づいた。


私がびくり、と震えた瞬間

ルオンは私の耳元で囁く。



「ルミナがギルを止めないと、きっとギルは何も言わずに君の前から去るよ。

…いいの?ギルがいなくなっても。」



…!


心が、震えた。


ルオンの声が体の奥にまで入り込んで

私の心を締め付ける。



…私が止めないと、ギルはいなくなってしまうの?



優しい笑みと温かなギルの体温が蘇る。


私の心を見透かすように、ルオンは低く笑って話し始めた。



「モートンから僕の過去を聞いたんでしょ?

察しが良ければ、ギルの正体なんてすぐ分かるよ。」



え…?


私が驚いて顔を上げると

ルオンは私から一歩離れて言葉を続けた。



「前に言ったよね?大きな魔力を持って生まれる魔法使いは稀だって。

僕と兄さんは、そのメカニズムを調べるために“実験対象”にされたんだよ。」



…。

え…?


私は、ルオンの言った言葉の意味が分からなくて頭が混乱した。


“僕と兄さん”…?


レイは、魔法の使えない人間のはずだ。


魔力の実験対象にされるわけが…。



私の動揺をよそに、ルオンは話を続ける。



「兄さんは、魔力の強さを調べるために魔獣の棲む洞窟に閉じ込められた時

自分の“偽の死体”を魔法で作り出して、洞窟から逃げ出したんだ。」



っ!


ルオンは、信じられない言葉を次々と語っていく。



「逃げ出した兄さんは、魔力を使い果たして倒れたんだけど、研究所を裏切ったラドリーによって介抱され、命を救われたんだ。

ラドリーはそれが原因で研究所を辞めて、闇喰いの道へと堕ちていった。」



その時、私の頭にある疑問が浮かんだ。


お父さんが研究所を辞める原因になったのは“ギル”のはずだ。


研究所跡地で聞いた話は、嘘ではない。


どくん!と低い鼓動が全身に広がった。


頭の中に、今まで何度も考えては消していた疑問が色濃く浮かび上がる。



“あなたが……“ギル”なの…?”


“…んなわけねぇだろ、バーカ”