急に雰囲気が変わったモートンに

私は少し戸惑いながら頷く。


すると、モートンは顔を伏せ顎に手を当てると、私に向かって口を開いた。



「…ルミナさん。

レイ君の言うように、今後、ルオンという少年には近づかない方がいいですね。」



「えっ?」



ルオンに近づかない方がいい?

モートンまで、そんなことを言うの…?



「どうしてですか?

“一号”…っていうのと、何か関係があるんですか…?」



モートンは、少しの沈黙の後

私に向かって、近くにあるベンチを指して口を開いた。



「少し長い話になるかもしれません。

あそこに座りましょうか。」



…もしかして、過去のことを私に話してくれるの…?


私は、モートンに言われるがままにベンチに腰をかけた。


隣に座ったモートンは、小さく呼吸をすると白衣の袖を握りしめながら話し始めた。



「ルミナさんは、レイ君が研究所で暮らしていたことを知っていますね?」


「はい。…詳しいことは知りませんが…。」



モートンは、視線を落としたまま続けた。



「実は、レイ君は“実験対象”として研究所に連れて来られたのですが…あまりにもひどい扱いを受けましてね。

それを見かねたラドリーが、研究所から逃げ出そうとするレイ君の手助けをして僕の家へと連れて来たんです。」






“実験対象”…?


ぞくり、と体が震えた。

想像もしていなかったことに、私は言葉を失う。


レイに、そんな過去が…?


モートンは、私をちらり、と見て話を続けた。



「その後、レイ君を失った研究員達は、新たな“実験対象”を探して、レイ君と同じ血を持つルオン君を連れて来たんです。

言うなれば、ルオン君は“二号”ですね。」



…!


レイが“一号”と言われてあんなに反応したのは、これが理由だったんだ。


モートンは詳しく語ろうとはしないけど
“ひどい扱い”って聞くだけで体が震える。


…そんな過去、思い出したくもないよね。



「レイ君は、ラドリーによって助け出されましたが、ルオン君には協力者がいませんでした。

僕やラドリーは、レイ君が研究所から去った後、いまだに研究が進められていることを知らなかったのです。」



助けようとしても、助けられなかったってこと…?


その時、嫌な予感がした。


この先の言葉を聞くことに、言いようのない不安感を覚える。


モートンは、私へと顔を向けた。


前髪からのぞく翠色の瞳は、真剣な色を宿している。



私が、ごくり、と喉を鳴らした時

モートンはゆっくりと口を開いた。



「ルオン君は、実験に耐え切れず、研究所の魔法書に載っていた禁忌の闇魔法に手を出し

自身の魔力で研究員の命を奪い、研究所を廃墟にしたのです。」



!!


そ、それって……


どくん!と心臓が鈍く音を立てた。

冷や汗が、つぅ…、と頬をつたう。


私の心中を察したかのように、モートンは低い声で言い切った。



「…僕も、ルミナさんの話を聞いて、やっと気づきました。

ルミナさんが出会ったルオンという少年こそ裏でエンプティと名乗るダウトのボスだったのです。」