ふいに、胸がドキン、と鳴った。


この人、本当は優しい人なのかな。


私は小さく頷いて足を踏み出す。

本当にお世話になりっぱなしだ。

もう酒場に行くことはないだろうから、今後レイさんとと会うこともないんだろうけど…


「…あの、レイさん…っ」

「なんだよ」

「もう、腕を引っ張ってもらわなくても、ちゃんと付いて行きますよ」


すると、私の言葉にレイさんは、ばっ!と手を離す。

少し動揺したように私を見たレイさんは小さく口を開いた。


「お前、犬みたいだから掴んでおかないと不安だったんだよ。…ちゃんとはぐれないで付いて来いよ」


“犬”…?


私がきょとんとしていると、レイさんは歩きながら続けた。


「闇のことを教えてやるって言われたら、どんな奴にでも付いて行きそうだろ?人を疑ったりしなさそうだもん、お前。」


あ…確かに。

ギルの情報をくれるって言われたら、と考えると否定できない。


すると、レイさんは少し低い声で言った。


「世の中には“悪い奴”がいるんだぞ。あんま、人を信用しすぎるなよ。…俺みたいな奴に騙されるぞ」


私は、レイさんの言葉に目を見開いた。

そして、前を歩く彼の背中を見上げながら口を開く。


「レイさんは、“悪い奴”じゃないでしょう?人を騙すような人だとは思えません。」


レイさんは、私の言葉に少し反応した。

表情は見えなかったけど、彼はさっきより少し掠れた声で私に答えた。


「ばーか、何言ってんだよ。お前、俺のこと何も知らないくせに…」


確かに…レイさんの言う通りだけど。

私は、スタスタと歩き続けるレイさんに向かってはっきりと答えた。


「少し話せば、レイさんがいい人だってことは分かります。…とっても優しい人です」


すると、私の言葉を黙って聞いていたレイさんが、少しの沈黙の後小さく答えた。


「……“レイ”でいい。変に気を使わなくていいから、敬語もやめろよ」


その時、私は少し心の距離が近づいたような気がした。


「…ん。行くぞ、ルミナ。」


レイはそう言って、初めて私の方へと振り向いた。

その横顔が、どこか昨夜のギルの綺麗な横顔と重なったように見えたのはたぶん気のせいだ。


…あれ?

私、レイに名前言ったかな…?


私は、小さな疑問をかき消すように頭をぶんぶんと振ると、スタスタと歩くレイの背中を追いかけた。