闇喰いに魔法のキス




ルオンは、私を見た瞬間から驚いたように、微かに目を見開いた。


しかし、すぐにいつもの優しげな笑みを浮かべると

私に向かって手招きをした。


私は、彼に誘われるがまま、草原の中心に向かって歩いていく。


サク…、と草原を踏む足音が耳に届く。


私がルオンの目の前まで来ると

私より少し高いところにあるルオンの目線が私をとらえた。


ルオンが、ゆっくりと口を開く。



「…びっくりした。

まさか、ルミナが来るなんて思ってなかったから。」



その言葉に、私はルオンを見つめ返して答える。



「ルオンを探してたら、お父さんの魔法書に載っていた蝶を見つけて…

追いかけてきたら、この草原に出たの。」



「へぇ……。

あいつらがルミナを僕のところに案内したんだ?」



私は、ルオンに向かって尋ねた。



「あの蝶たちは、ルオンにとっても懐いてるんだね。」



するとルオンは、青空を舞う蝶を見上げながら呟いた。



「あいつらは、僕に懐いてるんじゃないよ。魔力の餌を求めて寄ってくるだけ。

魔法使いがいないと生きていけないあいつらにとって、僕は“敵”だから。」



…“敵”?


含みを持ったルオンの言葉に、私は尋ねた。



「どうして、“敵”なの?」



すると、ルオンは遠くを見つめるような瞳で空を見上げながら答えた。



「僕は、魔法使いを消しているから。

まぁ、償いとして僕の魔力をたまにこうやってあげてるから、許してくれてるだろうけど。」



…!


“魔法使いを消している”…?


嫌な胸騒ぎを感じて、私は、ごくり、と喉を鳴らした。


その時、ルオンが私に向かって尋ねる。



「…僕を探してたんだよね?何か用?」



綺麗な碧眼が私をとらえた。

まっすぐな視線に少し躊躇しながら答える。



「聞きたいことがあって来たの。」


「聞きたいこと…?」



私は、視線を逸らさずにはっきりと言った。



「パーティーの日、ルオンと一緒にいた男の人は、ラルフっていうダウトの幹部だったよね…?

ルオンは、その人とどういう関係なの…?」



すると私の言葉を聞いたルオンは

ぴくり、と眉を動かした。


そして、少しの沈黙の後、顔を微かに伏せて答える。



「あの男の人、ダウトの幹部だったんだ?

僕はあそこの屋敷のお嬢様の執事かと思ってた。」



え…?


予想外の言葉に目を見開くと、ルオンは
さらり、と言葉を続ける。



「迎えの車が来て帰る準備が整ったら、声をかけてくれるように頼んでおいたんだ。

彼と僕は、あの日が初対面だよ。」



…ラルフは、シルバーナの執事としてあの屋敷にいただけ…?

そして、ルオンはダウトと全く関係をもっていなかったってこと?