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「いらっしゃい、いらっしゃい!
今日は新鮮な野菜が特売だよーっ!」
ガヤガヤ、と賑わう市場。
休日なだけあって人も多い。
ルオンに会おう、という気持ち一つで出てきたものの、私は彼のことを何も知らない。
…どこに行ったら会えるんだろう。
とりあえず、ルオンがよく来ると言っていた市場に来てみたけど
こんなに人がいたんじゃ、少年一人探すのも容易じゃない。
そもそも、ルオンは今日市場に来ているんだろうか?
せめて、黄金の髪を見つけられたら…
すると、その時
綺麗な羽の蝶が、私の視界に入った。
私は、はっ、としてその蝶に目を奪われる。
…確か、あの蝶は、お父さんの魔法書に載っていた。
強い魔力に誘われて飛んでいく蝶で、花の蜜の代わりに魔法使いの魔力で育つと聞いたことがある。
その時、ひらり、と蝶が裏道へと飛んでいった。
「…あ……」
私は、蝶に導かれるように足が動いた。
市場の賑わいを通り過ぎ、細く薄暗い裏道へと入っていく。
コツコツ…、と、静かな道に足音が響いた。
蝶は、何かを目指すように
ひらひらとまっすぐ飛んでいく。
迷路のように入り組んでいく道。
まるで、違う世界に引き込まれていくような
現実と、どんどん離れていくような感覚が私を包む。
私は、灰色の壁に手をついて立ち止まる。
裏道の先に、太陽の光が見えた。
…あそこが、道の終わり…?
私は、小さく呼吸をして歩き出した。
裏道がだんだん明るくなるにつれ、胸の鼓動が速まっていく。
……コツ…。
灰色の裏道を出た瞬間
私の視界に、別世界が広がった。
森に囲まれた一面の草原。
季節外れの花たちが咲き誇り、その中心に立つ“彼”の周りを、綺麗な蝶がひらひらと舞っていた。
…!
そこにいる人物に、私は目を見開く。
“彼”は、自分の目の前に、すっ、と手をかかげた。
すると、一匹の蝶がひらり、と“彼”の手に止まり、綺麗な羽を動かし始める。
きらきらと、優しい太陽の光が“彼”の黄金の髪を照らした。
その光景は、あまりにも綺麗で、どこか悲しげで
私の目には、まるで一枚の絵のように見えた。
サァ…ッ、と穏やかな風が辺りを吹き抜ける。
すると、蝶たちは“彼”から離れ、ひらひらと空へ飛んでいく。
“彼”は、離れていく蝶を見つめているようで
どこか遠くを見ているような気がした。
その時、ふっ、と“彼”がこちらを見た。
ぱちっ、と目が合って、私は呼吸を止める。
「…ルミナ…?」
その声に答えるように、私は“彼”の名を呼んだ。
「ルオン……。」



