あの低くて、底知れないしたたかさを含んだ声もどこかで聞いたことがあるような……



“ルオン様”



…!



はっ!と、私は目を見開いた。


パーティ会場での記憶が蘇る。


私がルオンを追いかけて、二人で話していた時

ルオンを呼びに来た男の人も、黒のタキシードにメガネ姿だった。


それに、その男の人を見たルオンは、彼を“ラルフ”と呼んでいたような気がする…。



…まさか……

ルオンの知り合い…?



ルオンと、一体どういう関係なの…?



私は、ばっ!とソファから立ち上がった。



…ルオンに会って、直接聞いてみよう。


もし、ルオンの魔法の力をダウトが狙っているのなら

ちゃんと奴らから逃げるように伝えなきゃ…!



私は、まっすぐ酒場の扉に向かって駆け出した。


レイが、カウンターから私に向かって声をかける。



「ルミナ?出かけるのか?」


「うん…!暗くなる前に帰るから!」



私は、レイにそう答えると

キィッ、と勢いよく扉を開けて、街へと走り出したのだった。



****



《レイside》



バタン、と閉まった酒場の扉を見つめる。


酒場の中の静けさが、急に濃くなったような気がした。



ルミナの奴、あんなに急いでどこ行くんだ?

どこか険しい顔つきをしてたような…。


まぁ、でもシンが俺の中に移った今、ルミナがダウトの標的になることはなくなった。


俺が、とやかく心配する必要はない。



……。


…いや、でもルミナは可愛いからな。


一人でうろついてたら、変な男に声をかけられるかもしれない。


パーティ会場でも、素性不明で俺似の男と知り合いになってたらしいし…。


…あー、ダメだ。


こんな心配してることは絶対ルミナに言えないが、なんとなく落ち着かねぇ……。



その時

キィ…、と酒場の扉が開いた。


はっ、として音のする方を見ると、そこには予想していなかった人物が立っていた。



「よぉ、レイ。

俺の伝言はちゃんと届いたか?」



そこには、ガタイの良い短髪の男。

力強い低音ボイスが酒場に響いた。



「ガ、ガロア警部………?!」



俺が、裏返った声で彼の名を呼ぶと

ガロア警部はゆっくりとカウンターに近づきながら口を開いた。



「まぁ、まぁ、そんなに警戒するな。

ギルの逮捕は保留にすると伝わってるだろ?今日はプライベートで来たんだ。」



確かに、ガロア警部はいつもの白マントは着ていない。

完全にオフだ。


俺がカウンターに腰掛けたガロア警部を見つめていると

彼は目を少し細めて言った。



「昨日のことは、ミラから聞いた。

シンのことも、ラルフの最期も。」