「…お…おはよう。」



研究所跡地での戦いの翌日。


キラキラと窓から日差しが差し込む朝の酒場。


私がカウンターに近寄りながら声をかけると

相変わらずポーカーフェイスのレイが、
ちら、と私を見て返事をした。



「ん、おはよ。

……よく眠れたか?」



っ……!


私は、ぎこちなくレイに答える。



「…う、うん。眠れたよ。」



嘘です。

全然寝れてません。


あなたの行動の真意が気になって…!!



「そうか…。

…まぁ、今日くらいは仕事を休んでもいい。好きに過ごせ。」



レイは、何事もなかったかのように、さらりとそう言った。


…あれ?

昨日、おでこに“キス”されたと思ったのは、私の勘違い…?


いや、でも、目をつぶっていたとはいえ
あの感触は確かに唇だったはず。


…レイにキスされたことないから、唇かどうかはわからないけど…

確かに、あの柔らかさは………



って、何考えているんだ、私は!



私は、レイをちらり、と見上げて言葉を続ける。



「あの…えっと…昨日は色々ごめんなさい」


「気にすんな。

胸を貸すくらいならいつでもしてやる。」



…!


レイはグラスを拭く手元から目を逸らさずに答える。


やっぱり、動揺している様子も意識している様子もない。



…昨日の夜は夢を見ていたのかな…?

いや、でも………。



悶々と考えるが、答えは出ないままだった。



もう、だめだ。

考えているうちに緊張で頭が爆発しそう。



私は、くるり、とカウンターに背を向けて、トサッ、とソファに腰をかけた。


小さく呼吸をしてまつげを伏せる。


頭に浮かぶのは、昨日の戦いのことばかり。



…ギルは、私からシンの魔力を受け取った。


もし、シンが闇に渡っていたら、きっとこの国は今までのような平和は無くなっていた。


もし、シンが光に渡っていたら、凶悪な闇魔法のシンはすぐに消滅させられ、お父さんからモートンに引き継がれた“名もなき魔法”の研究の意味が無くなってしまう。



これで、よかったんだよね…。



私の頭の中に、ラルフの最期が蘇る。



…ラルフは、エンプティの魔法によって始末された…。


自分の側近を、あんなにためらいなく消すなんて信じられない。


ラルフは、跡形もなく消えてしまった。


黒いタキシードも、メガネも………



その時、私の脳裏に何かがよぎった。



ラルフと初めて会った時、私は彼に対してどこかで会ったような気がしてた。


…何か…私は忘れている……?