…!!



どくん、という心臓の音が、はっきりと私の身体中に響いた。


全身の神経がレイの言葉に反応する。


レイは、言葉が喉につかえて声が出せない私に向かって優しく続けた。



「ギルはきっと、自分の前で泣いて欲しいって思ってるよ。

ルミナに我慢をさせるくらいなら、自分を傷つけて欲しいと思ってる。」



レイは、「でも。」と力強く続ける。


そして、世界で一番優しい言葉を私の耳元で囁いた。



「それでも、ギルの前で泣かないなら…。

……俺の前では、ちゃんと泣けよ。」







込み上げる思いをせき止めていたものが

その言葉に溶かされて消えていく。


熱いレイの言葉が、私の心を震わせる。



「全部…全部俺が受け止めるから。

ギルの代わりに、俺に涙を拭かせて…?」



その瞬間。



今まで我慢していた熱い滴が

私の頬へと流れ出した。



一度溢れ出してしまったものは、もう何をしても止めることができない。



「……っ…………。」



私は、レイの腕に抱きしめられたまま

子供のように泣いた。


涙が流れている間

嗚咽で呼吸が乱れる間


レイはずっと私を離さなかった。



…そして、何も言わなかった。



酒場が、ゆっくりと夜に包まれていった。



****



「……ん……。」



どのくらい時間が経っただろう。

気がつくと、ソファに横たわっている。


体には、レイのコートが掛けられていた。


…泣き疲れて眠っちゃったんだ、私…。



すると、その時

コツ…コツ…、と足音が聞こえてきた。



…!

レイだ…!



そう思った瞬間

レイに抱きしめられた記憶が蘇る。



…私、レイの前で泣いちゃったんだ…!


は、恥ずかしくて、どう接すればいいのか
分からない…!



「……ルミナ…?」



「………。」



私は、とっさに寝たフリをしてしまった。


…ごめんなさい、レイ…!

この間から、私は失態を犯してばかり…!



「……寝てる……か…。」



レイの呟く声が聞こえた。


……ドキドキする……。



その時、すっ、と体が横になったまま抱き上げられた。



っ!

お…お姫様抱っこ…。



きゅっ、と体をこわばらせるが、不自然にならない程度にレイに体を預ける。


力強い腕が私を支える。


レイから伝わる体温に、私の緊張が高まった。



…バレたくない…っ!

お願いだから、起きていることに気付かないで…!