ギルは、強い。



罪を重ねることになったとしても、私が足かせにならなければ

リバウンドなしで闇魔法を使えるギルが戦いの中で命を落とすことはない。


私は、ギルにこれ以上手を汚して欲しくなかった。


でも、今はそれ以上に、あなたに死んで欲しくない。


今回の戦いで、ロディが私を逃がすために大怪我をして、死んでしまったかもしれないと思った時

ギルがいなくなったらと考えた時


もう、誰もいなくなって欲しくない、と
強く思った。



私は視線をそらさずに、ギルに向かって口を開いた。



「…ギル。私ね、ずっと迷ってたの。

あなたに、“シン”を渡すべきなのか。」



「!」



ギルが、ぴくり、と眉を動かした。


ロディとミラさんも、息を呑んで私を見つめる。


私は、小さく言葉を続ける。



「だけど……ようやく心が決まった。」



すうっ…、と呼吸をして

声に心からの気持ちを込めて言い放った。



「もし、シンを渡すなら、ギルがいい。

ギルにシンを渡して、あなたに自由を返したい…!」



ギルが、目を見開いて小さく呼吸をした

次の瞬間だった。



パァァッ!!



突然、私の足元に大きな魔方陣が広がった。

私を中心に、古代の文字がぐるぐると配列されていく。



な、何が起こっているの……?!



その時、ロディが、はっ!として叫んだ。



「これは、ラドリーさんの魔方陣だ…!」





お父さんの…?!



輝きを増す魔方陣は、古代文字の渦を生み出し、私の体を包んでいく。



轟々と吹き荒れる風に、ロディとミラさんは腕で顔を覆いながら必死に耐える。



その時

私とギルを取り巻くように広がった魔方陣がぴたり、と動きを止めた。



ギルの体が、ぽうっ、と光る。



私を包んでいた渦が、ドッ!とギルに向かって飛んでいく。



「っ!!」



ギルが、目を見開いた瞬間

パァン!と私の足元の魔方陣が粉々に割れて消え去った。



がくん…!



私は足の力が抜けて地面に崩れ落ちる。


そして、ふっ、と目の前を見上げると

ギルは瞳を強く輝かせて自分の手のひらを見つめていた。


ギルの体からは、今まで感じたこともない魔力が放たれている。



…私の体から解き放たれたシンが、ギルの体に宿ったの…?