……。


私は、ぎゅっ、と手のひらを握りしめ

すぅ…、と静かに息を吐いて、目を閉じる。


そして、次の瞬間

ばっ!とギルに向かって頭を下げた。



「…っ?!」



驚いて、動揺したような呼吸が頭上から聞こえたその時

私は頭を下げたまま、口を開いた。



「ギル、ごめんなさい!」


「!!」



そして、顔を上げ、言葉を失うギルに向かって言葉を続ける。



「どうして何も言ってくれないんだろうって何度も考えたことがあったけど

あなたに嘘をつかせ、真実を隠させたのは、私だった。」



私が、傷つかないように。

汚れていない父の記憶が、闇に染まらないように。


ギルは、最初から、私を守るためだけに罪を重ねる人だった。


私のせいで、あなたの人生を縛っていた。


その時、ギルが私を見つめて口を開いた。


「ルミナ、謝らなくていい…!

真実を隠すと決めたのも、君を守ると決めたのも、全部僕自身だ。

悪いのは、全部、僕…………」



次の瞬間。


私は、ギルの外套をぎゅっ、と掴み

彼をそっと抱きしめた。


ギルは、「…っ。」と言葉を止める。



「…ギル……ありがとう…。」


「!」


「言葉だけじゃ…足りないよ。

ごめんなさい、上手く伝えられないけど……“ありがとう”しか出て来ない」



今まで、私をお父さんの代わりに守ってきてくれたギル。


私は彼に助けられる度に、彼に罪を重ねさせてしまったことだけしか考えられなくて

“ごめんなさい”と、謝ってばかりだった。


もっと、もっと伝えたい言葉を、ちゃんと伝えられていなかった。


“ありがとう”と、あなたに言うことが出来なかった。



その時、私の背中にギルの腕が回された。

ぎゅうっ…、とその腕に力が入る。


耳元で、ギルの少し震えた声が聞こえた。



「…僕が、ラドリーさんを闇喰いにしてしまったようなものなんだ。僕の魔法も、ラドリーさんの命と引き換えに受け継いだ。

僕を嫌ってもいいんだよ。憎んでもいい。怒鳴ってもいい。」



…!


私は、ギルの胸に顔を埋めて小さく呟いた。



「そんなこと……しないよ……。」



その言葉が、彼の耳に届いた時

私は覚悟を決めて、彼の体を、そっ、と押した。



トッ、と私とギルが離れる。



私は、ギルをまっすぐ見つめた。



私の目に映るのは、傷だらけになったギルの姿。



ツキ…、と心が痛む。



…ギルが怪我をするのは、闇に襲われた時じゃない。

私を守って、盾になった時だけ。