闇喰いに魔法のキス




…!


その感情のこもっていない声に、体がこわばる。


その時、ラルフが動揺したように声を上げた。



『エ…エンプティ様…!』



!!


エンプティ…?!


ラルフの口から出たダウトのボスの名前に、その場の空気が、ガラリと変わった。


とっさに辺りを見回すが人影は見えず

地の底から響くような声だけが聞こえる。



『魔力まで奪われたの?君は…。

失敗は許さないって言ったよね。』



威厳のある大人な声の感じとは裏腹に、その口調はどこかイメージとは違う。

ただ、優しく声をかけるような口調で感情を込められていない声こそ、一番怖い。


ラルフが、顔を上げながら空に向かって叫んだ。



『申し訳ありません、エンプティ様…!思わぬ誤算が重なりまして…。

助けていただいてありがとうございます。次こそは、必ず………』



『“次”…?』



ぞくっ!


ラルフの言葉を遮るようにして響いたその声は、今まで聞いた中で一番低く

無意識に体が震え上がるほどの冷たい声だった。


ギルも、険しい表情で状況を見つめている。


すると、その時

エンプティの非常な声が響いた。



『ラルフ…何か勘違いしているようだけど、僕は君を助けた訳じゃないよ。

僕は、君がタリズマンに連れていかれて、うっかり変なことを喋らないように、君の口を封じに来たんだ。』



『え……』



ラルフの引きつった声が聞こえた瞬間

ラルフの目の前に外套を羽織った男が現れ、漆黒の矢をラルフに向かって躊躇なく放った。



ドッ……!



「「「「!!!」」」」



その場にいた全員が、絶句する。


それは、一瞬の出来事だった。


漆黒の矢に貫かれたラルフは、呼吸をすることもなく動かなくなる。

サラサラ…と砂のように消えていき、私がまばたきをする間に、完全にその場から消え去った。



う…嘘…。

ラルフが、エンプティに始末された…?



私は目の前の光景が、ただただ信じられなくて

小さく震えてその場に立ち尽くす。



その時、ふっ、と、外套を羽織ったエンプティがこちらを向いた。

フードを被っているせいで、顔はよく見えない。



「エンプティ…!」



ギルが、感情の込もった声で彼の名前を呼ぶ。


すると、微かに見えていたエンプティの口元が、ニヤリ、と笑ったような気がした。



『…やぁ、ギル。久しぶりだね。』