その時、ミラさんがギルに向かって叫ぶ。



「ギル!ラルフの命は奪わないで。

奴には聞きたいことがたくさんあるの。生かしたまま、私が本部に連行する。」







ギルは、ミラさんに向かって小さく目で合図を送った。



その瞬間

パァッ…!と、辺りにギルの魔力が溢れだす。



…始まる…!



私が、ぎゅっ、と体に掛けられたロディのコートを掴んだ

その時だった。




「……“ミラ”。」



…!



ロディの、低い声が、私の頭上から小さく聞こえた。


…“ミラ”…?


ロディがミラさんを名前で呼ぶのを聞いたのは、初めてだった。


ロディは、ぴくり、と反応したミラさんに、そのまま小声で言葉を続ける。



「…俺たち、一時休戦にしないか。

俺の力じゃ、飛んできた攻撃魔法から嬢ちゃんを守りきれないかもしれない。」






すると、ミラさんは、すっ、と長い綺麗な髪を耳にかけ、小さく答えた。



「…そうね…。タリズマンの使命は、国民を闇から守ること。

“ロディ”。あなたもついでに守ってあげるから、ルミナさんの隣に座ってて。」


「…あぁ、頼んだ。」




…“ロディ”?


ミラさんは、いつも一線引いたように

“情報屋”と呼び続けていた。



私は、二人の間で密かに交わされたやり取りから、意味深な空気を感じ取った。



ドサ、と私の隣に腰を下ろし、胸の傷に手を当てるロディに、私は小声で声をかける。



「…ロディ、ごめんなさい。

私を逃がすために危険な目に合わせちゃって…。」



「いや、嬢ちゃんは気にする必要はない。

情報屋をやってりゃ、危ない目に遭うのは日常茶飯事だ。」



ふっ、と笑ってそう答えるロディに、ふわっと心が軽くなった。


私は一呼吸おいて、少し躊躇しながら、さっきよりも小声で尋ねる。



「あの……ロディとミラさんって、昔からの知り合いなの?」


「え…?」



ロディは、予想外の質問だったらしく、目を微かに見開いた。



…き、聞いちゃいけないことだったのかな?



私が少し緊張してロディの様子を伺っていると

ロディは、ふっ、と笑い、遠くを見るような瞳で呟いた。



「まぁ、そうだな。今は敵同士だが………

“ただの知り合いじゃなかった”ことだけは言えるな。」



「え…?」