ミラさんのはっきりとした口調に、ギルは少しの沈黙の後、無言で頷いた。



…ギルは、“闇喰い”。

何人もの闇を、禁忌を犯して消してきた。


どんな事情があろうとも、それは消せない罪になる。



ミラさんの言葉を聞いて、私は胸が苦しくなった。



ギルは、私のお父さんとの約束があるから闇喰いとして戦ってくれている。


…ギルがそこまでして約束に拘る理由は何なのだろう…?



と、その時

研究所跡地に、黒い魔力が放たれた。



私たちは、はっ!として魔力の源に目を向ける。



すると、数十メートル先で、先ほどギルに飛ばされたラルフが、荒い呼吸をしながら

木の幹に寄りかかるようにして、ゆらり、と立ち上がった。



…!


まだ、決着はついていない…。



私は緊張感に包まれる中、ギルを見上げた。




ギルは、鋭い視線でまっすぐラルフを見つめている。



その時、私とギルに背を向け、ラルフの方を向いたロディが

こちらを見ずにギルに声をかけた。



「さて、ギル。

あいつをどうする?」



「え?」



さらりと低い声で言ったロディに、ギルが少し動揺した声を出した。


ロディは、向こうを向いたまま言葉を続ける。



「パソコン弁償くらいじゃ許せないよな。

あいつのメガネ、叩き割るか。」



ミラさんは、ちらり、とロディを見上げて尋ねた。



「…怒ってる?」



「当たり前だろ。

俺が相棒を身代わりにしなかったら、今頃、俺が真っ二つになってたんだぞ。」



ロディが苛立っているのを見るのは初めてだ。


…口調はそれほど変わらないし、顔は見えないけど…。

相当冷たい瞳をしてるんだろうなってことは想像がつく。



その時、ギルがロディの前に、すっ、と出て口を開いた。



「ロディ。パソコンの仇はとるから、お前はルミナの側にいてくれないか。

攻撃魔法が飛んでくるかもしれない。」



ロディは、ギルの横顔を見た。


…完全にいつものギルだ。


瞳には、強い光が宿っている。

もう、ラルフの言葉に惑わされたりしない。


ロディは、小さく息を吐くと

髪をかきあげながらギルに答えた。



「…了解。頼んだぞ、ギル。」



ギルは、微かに口角を上げて頷き

ラルフに向かって歩き出した。



…もう、ギルは大丈夫。

闇と戦うことへの不安感は無くならないが、私はどこか安心して彼の背中を見送った。