私が、再び涙目になった、その時

ギルがロディに向かって尋ねた。



「ロディ、お前、傷は大丈夫なのか?

ラルフに斬られたんじゃ…?」



私がギルの言葉に、はっ、として、改めてミラさんに支えられているロディを見ると

彼の胸元のシャツは大きく切り裂かれていて血の染みが付いている。



ぞくり、と体が震えた。



パソコンを犠牲にしてダメージを減らしたとはいえ、ロディのシャツを見れば相当大きな傷を負ったということが見て取れる。



すると、ロディは苦笑してミラさんを見ながら口を開いた。



「確かに、正直ヤバかったんだが、コイツの治癒魔法のおかげで傷は塞がったんだ。

ギルと嬢ちゃんのところにも、瞬間移動魔法で来れた。」






ミラさんがロディの傷を治して、ここまで連れてきてくれたの…?



その時、ロディの腕を肩に回していたミラさんが、すっ、とギルの前へと歩み出た。



ギルが、ぴくり、と眉を動かす。



すると、ミラさんはギルをまっすぐ見つめて口を開いた。



「警戒しないで。私は、あなたを捕まえに来たんじゃない。

…ガロア警部に、“特別任務”を任されて来たの。」



「!」



ギルの瞳が、戸惑ったように微かに細まった。


すると、ミラさんは、白マントの内ポケットから一枚の紙を取り出した。

そこには、見慣れない魔方陣のようなものが描かれている。


…?


私が、状況が掴めずにギルを見上げると

ギルは驚いて目を見開いている。



と、次の瞬間だった。



…ビリッ!!



「「「!」」」



ミラさんは、私たちの前でその紙をビリビリに破り捨てた。


そして、小さく息を吸い込むと、聞いたこともない声でギルに言い放った。



「“お前の魔方陣なんかなくたって、ギルがどこに隠れてようが、俺の魔力で探し出してやる!

こんな担保なんて、いらねぇ!タリズマンを舐めんな、ガキ!首洗って待っとけよ!”」



……っ!!



ミラさんの思いもよらぬ行動に、私たちが動揺していると

ミラさんが、小さく咳払いをして言葉を続けた。



「…と、ガロア警部からの伝言です。

今回は、ギルの逮捕は保留にするとの判断が下されました。」



…!!



私たち三人は、それを聞いて目を見開いた。



…“ギルの逮捕は保留”…?



現実とは思えないようなセリフに固まっていると、ミラさんが、鋭い目つきでギルを見つめて言った。



「…勘違いはしないで。今は、国民の平和を奪うダウトの捜査を優先するだけであって、あなたを見逃すわけじゃない。

…“その時”が来たら、必ずあなたを捕まえます。」