「…確かに“真っ二つ”だな。」



『「「!!!」」』




音を失っていた私の耳に、ある一人の青年の声が届いた。


その場にいた全員が動きを止める。



……今の……声………。



私は、ばっ!と声のする方を見た。



「!」



すると、そこには真っ黒いコートの青年。

漆黒の髪が、風になびく。



そして、彼を支えるように立つ、長い綺麗な髪を持つ白マントの女性。






…嘘……!



ラルフが、動揺したように口を開いた。



『く…黒き狼に、タリズマン…?!

なぜだ…?!黒き狼は確かにあの時、この剣で斬ったはず…!』



その時

二度と聞けないと思っていた低く艶のある声が辺りに響いた。



「あぁ、斬られたよ。俺の相棒のパソコンが“真っ二つ”だ。

…どうしてくれんだ、てめぇ…。」



!!


パソコン…?!



私は、はっ!と酒場を出た時のロディの姿を思い出す。


確か、ロディはカバンにパソコンを入れて、肩に提げていた。



…まさか、斬られる瞬間にパソコンを身代わりにして、威力を削ったの…?!



と、その時

ロディとミラさんに気を取られていたラルフを、倒れていたギルが足で蹴り飛ばした。



ドッ!という鈍い音と共に

ラルフは数十メートル先まで飛んでいく。



木の幹に、ドン!と強く体を打ち付けられたラルフは、小さく唸って、ずるずると地面に沈んだ。



それを見たギルは、小さく呼吸をすると

タン!と地面を蹴り、私の側に着地する。



目の前の光景が信じられずに、開いた口が塞がらないでいると

ロディとミラさんは、私とギルに向かって歩き、目の前で立ち止まった。



…ほ…本物のロディだよね…?

夢じゃないよね…?



私とギルがまじまじと二人を見つめているとロディがいつもの口調でギルに声をかけた。



「おい、ギル。ダウトごときに何モタついてんだ。

敵に揺さぶられるなんてお前らしくもない」



ギルは、ぱちぱちとまばたきをして、ぽつり、と呟く。



「…だ…って、ロディが……」



「ガキ。そろそろ“親離れ”しろ。

俺の死くらい軽く乗り越えてもらわないと、おちおちこの世から消えられないだろ。」



目を細めてギルにそう答えたロディに、ギルは、やっと現実を受け入れたようにいつもの口調で言った。



「…ロディは、僕の親じゃなくて“相棒”だろ。

勝手にいなくなったら、怒るぞ。墓にタバコも酒も供えてやらないからな。」



「…ん、それは困るな。…悪かった。」



…よかった…。

いつものギルに戻った…。



私が、はぁっ、と安堵の息を漏らすと、ロディが、ぱっ、と私を見た。

そして、ばさり、と優しく私にコートをかけて口を開く。



「…ギルは間に合ったみたいだな。

怪我がなさそうで良かった。」



ロディのコートから、微かにタバコの匂いがする。


いつもの、ロディの少し大人な香りだ。



…生きてる。

…ロディが、ここにいる…!