私は、嫌な予感がした。


どうしてそう思うのか、自分でも分からないけど


“ギルが、壊れてしまうような”……

嫌な予感が……。



『私を苦しめて消す気ですか……?

…いいでしょう。私の全てで、あなたを葬ってあげます…!』



ラルフが、ギルに向かって低く言い放った。



と、次の瞬間

二人の魔法使いは、目に見えないほどの速さでぶつかり合った。



ゴォッ!!


魔力のぶつかりで生じる衝撃波が辺りに広がる。



「…っ!」



私は、研究所跡地のボロボロになった高さ二メートルほどの壁に背中をつけ

その衝撃波にひたすら耐えた。



細く目を開けて戦況を確認すると、激しい攻防戦を繰り広げている二人の動きは想像を絶していた。



ギルがラルフに向かって腕を突き出し魔法の刃を放出すると

それに対抗するようにラルフは手に持つ剣で刃を弾き飛ばす。



ギルは飛んできた刃を紙一重で避け、ラルフの隙をつくように蹴りを入れてラルフの足をすくう。



地面に倒れこんだラルフに、ギルは容赦なく魔法の刃を放出するが

ラルフは体を回転させて上手くかわし、下から突き上げるようにギルを攻めた。



ラルフの剣はギルの頬をかすめ、ギルはとっさに瞬間移動魔法でその場から離れる。



流れるようなその動きに、私は目が離せない。


どちらも引くことなく攻撃を仕掛けていく。



…ギルが、いつもの冷静さを失っている…?



だんだんと不安が胸にこみ上げてきた。



ギルが余裕を持って戦えない心境になっていることは痛いほど分かる。



でも……

でも………!



このまま、ギルが気持ちに飲み込まれてしまったら………!



どくん!と心臓が鈍く音を立てた

その時



ギルの攻撃魔法が、ラルフの腹部に命中した。



『ぐっ…!!』



ギルは、畳み掛けるようにラルフに接近し、ラルフの腕を強く掴んだ。







私が、はっ、と、息を吸い込んだ時

ラルフがギルに向かって低く言った。



『…ギル…。私が憎いですか…?』


「…!」



ギルの動きが、ぴたり、と止まる。


こう着状態となった二人の間に、ピリピリした空気が流れ

ラルフが荒い呼吸をしながら言葉を続けた。



『…憎いですよね。

ですが、私には憎まれる理由がありません。』



「…どういう意味だ……!」



ギルが怒りに満ちた声で答えたその時

それを聞いたラルフが、非情な瞳をギルに向けて言った。



『黒き狼がこの世から消えたのは、私のせいではありません。

…シンを持つ少女をあの男に預けた、君のせいです。』



「!」