俺は、ゆっくりまぶたを開けると

慌ただしく指示を出すタリズマンの二人に、顔を伏せたまま静かに告げた。



「…すみません、俺はもう行かせてもらいます。

タリズマンの皆さんには、ここにいる黒マントを頼んでもいいですか。」



俺の言葉に、二人は手を止めてこちらへ視線を向ける。


ガロア警部が、動揺したように俺に声をかけた。



「…まさか、一人で酒場の仲間の元に行くつもりか…?!

よせ!人間のお前が行ったって、無駄死にするだけだ!レイはここに残って、後はタリズマンに任せて……」



俺は、ふっ、と顔を上げる。


ガロア警部は、はっ!としたように言葉を詰まらせた。



……もう、迷っている場合じゃない。



俺は、覚悟を決めて

ガリッ…!と口の中の飴を噛み砕いた。



パァッ!!



その瞬間、最上階の部屋に俺の魔力が溢れ出す。



目を見開くタリズマンの二人は、言葉を失って俺を見つめた。



すぅ…、と俺は徐々に姿を変える。



黄金の髪に、薔薇色の瞳。



…ルミナがいないところでは、ギルをわざわざ演じなくていい。



俺は、いつもの口調で言い放った。



「…闇は、闇に任せな。」



「「!!」」



ガロア警部とミラさんは、まるで魔法にかけられたようにその場から動けずに俺を見つめる。



ミラさんが、震える声で呟いた。



「…ギル……?…!」



名前を呼ばれた瞬間

俺は二人に向かって口を開いた。



「…騙して、すみませんでした。

でも、もうここにはいられません。仲間の元に向かわせてもらいます。」



その時、動揺していたミラさんが、ぐっ!と手のひらを握りしめ俺に言った。



「行かせるわけないでしょう…。

ギル、あなたを本部で拘束します…!」



ガロア警部は、黙って俺を鋭い目つきで見つめている。


俺は、敵意をむき出しにした二人を見て

小さく呼吸をした。



…ただでは、出してもらえないよな…。



俺は、床に散らばった紙を一枚拾い、ペンをスラスラ走らせた。

数秒で、真っ白な紙に一つの魔方陣が描かれる。



目を見開くタリズマンの二人の前で

俺はその魔方陣に向かって魔力を放出した。


じわじわと魔方陣が濃くなり、小さく光を放つ。


…これくらいか…。


俺は、自身の魔力を込めた紙を、ガロア警部に向かって差し出した。



ガロア警部は、警戒しながら紙を受け取り、俺に尋ねる。



「…何のつもりだ…?」