ロディの威圧するような低い声に、私は彼の背中を見上げた。
ロディは、視線をそらすことなくラルフを睨んでいる。
すると、ラルフは微かに口角を上げてロディに答えた。
『帰れと言われて、おとなしく引き下がるとでも…?
…私は、シンを奪うためだけにここへ来たわけではありません。』
…!
それを聞いて眉間にシワを寄せるロディに、ラルフは言葉を続けた。
『黒き狼。私はシンと共に、あなたの持っている“データ”も渡してもらいに来たのです。
…ギルのデータが手に入れば私たちの利益になりますし、都合の悪いデータは消さなくてはなりません。』
!!
私はラルフの言葉に、どくん…!と心臓が鈍く鳴った。
ロディが険しい表情をしながら口を開く。
「…俺から情報を奪うつもりか…?」
ラルフは、それを聞いてニヤリ、と妖しい笑みを浮かべた。
言葉はなくても、それが“肯定”を表しているのは一目瞭然だ。
私は、ロディが肩から下げているバッグに目をやる。
…ラルフは、この中のパソコンを奪うつもり…?
すると、ロディが余裕の笑みを浮かべて答えた。
「残念だが…。
パソコンを奪っても、俺以外のやつは情報を閲覧出来ないようにロックシステムを組み込んである。」
それでも動じないラルフに、ロディは静かに続けた。
「それに、もし無理やりこじ開けたら、ギルの情報は全て初期化されるようにセットしてある。
…加えて、ダウトの情報は“ある奴”に全部送信され、タリズマンが動き出す。消そうとしたって無駄だ。」
私は、ロディの言葉を聞いて目を見開いた。
パソコンに、そんな仕掛けを…?
ロディって、やっぱりすごい人なんだ…!
その時、ラルフが顎に手を当ててロディを見つめた。
そして、少しの沈黙の後
ニヤリ、と不気味に笑って口を開く。
『…もし、ダウトの情報が送信されたとしても、その、“ある奴”という方からデータを奪えば問題ありません。』
ぴくり…、とロディは眉を動かした。
しかし、彼は動揺を見せない口調でラルフに向かって静かに言った。
「“あいつ”からデータを奪うのは不可能だ。寝込みを襲ってもすぐに目を覚ます。
それに、もし起きなかったとしても寝相が悪い。迂闊に近寄れば反射的に殴られる。」