闇喰いに魔法のキス





…嘘……でしょ……?

レイが…タリズマンに“捕まった”…?



私は、放心状態でレイ達の出て行った扉を見つめる。



すると、ロディが私の隣で苛立つように小さく呟いた。



「……あのバカ………!

俺に全ての尻拭いさせるつもりか…!ダウトの思惑に乗せられやがって…!」



え……?!



「それって、どういうこと…?!」



私は、険しい顔をするロディに向かって動揺しながら尋ねた。


すると、ロディは私の方を見下ろして低い声で答える。



「さっきの小瓶は、モートンが送ってきたんじゃない。

ダウトが、レイをタリズマンに逮捕させるために仕組んだ罠だ。“タレコミ”もダウトの仕業だと考えると筋が通る。」



!!


私は、それを聞いて

体に雷が落ちたようなショックを受けた。



…ダウトが、レイを陥れるために仕組んだの…?



一体、何のために?



私は、ロディに続けて尋ねる。



「どうして、レイが狙われたの…?

ダウトの標的は私でしょう?」



すると、ロディは「いや…」と小さく首を振って答えた。



「ダウトの狙いは、“レイを嬢ちゃんから引き離すこと”だ。

ただし、これは序章みたいなもんだと考えるのが普通だろ。…嫌な予感がする。」



レイを私から引き離すことは

ダウトにとって、何の利益があるんだろう?



レイは私やロディ、ギルと知り合いなだけで

シンのことや闇喰いのこととは無関係なはずなのに。



どくん、どくん、と心臓が鳴り止まない。

不安な気持ちがこみ上げる。



ロディは、何かを考え込むように押し黙ると素早くテーブルの上に広げていたパソコンをカバンにしまい込んだ。


そして、コートを羽織り肩にカバンをかけると、私に向かって早口で言った。



「嬢ちゃん。…実は今、ダウトに襲われたらギルが来れないかもしれないんだ。

最悪の事態に備えて、モートンの所へ行って匿ってもらおう。」



…!


ギルが来れないかもしれない…?



一気に全身の体温が下がる。



「さ…“最悪の事態”って…?」



私が恐る恐る尋ねると

ロディは小さく呼吸をして答えた。



「…そりゃ、もちろん…

嬢ちゃんが、魔法が使えない俺と二人っきりでいる今この状況で、ダウトが襲ってくることだ。」



それを聞いて、私が、はっ、とした

次の瞬間だった。




ドォン!!



「「?!」」



酒場の外から、何かが爆発するような大きな音が聞こえた。


私とロディは、反射的に窓の外を見る。



すると、窓の外には砂埃が立ち上っていて、ざっと見ただけで十人以上もいるであろう黒マントの姿が見えた。