私と、レイの声が重なった。


ロディは、にっ、と不敵に笑って私に続ける。



「酒場に来る前、市場で嬢ちゃんを見かけたんだ。

同い年くらいの男と並んで歩いてたろ?」



うっ!!!

ま、まさか、ルオンのこと?!


私は、盛大な勘違いをしているロディに向かって、慌てて答えた。



「違うよっ、あの人は私の友達!

私より年下だし…………」



その瞬間

レイの手に持っていた瓶が、シュン!と地面に向かって滑り落ちる。



パリーンッ!!



カウンターから大きな音が響き、それを見たロディが目を見開いて言った。




「あっ、お前!その酒、貴重な年代モノじゃねえか!

俺が後で飲もうと目をつけてたのに。」




しかし、そんなロディの言葉を無視して
レイは私に向かって爆弾発言をした。



「と…“年下”?

ルミナ、お前、年上より年下の方がいいのかよ…!」



れ…

レイまで、何言ってるの?!!



私は、どこか殺気立つレイと、くすくす笑い出すロディに弁解する。



「その人とは、この前のパーティで知り合って、今日偶然再会しただけなの!」



「パーティだと…?」



レイはそう小さく呟いて、ギロリン、とロディを睨む。



“ロディ!ルミナを頼んだぞって言っただろ。

悪い虫ついてんじゃねぇか…!”


“悪い。”



無言の会話を繰り広げる彼らを、私は動揺しながら見つめる。


すると、ムッとした表情のレイが、ちら、と私を見て言った。



「どこのどいつだ、その男。

パーティに来てたってことは、どっかの御曹司か?」



感情を読み取れないようないつものレイの声。


少し動揺してるように感じるのは、私が平常心でないからそう思うのかな。



「御曹司じゃないって言ってた。全然、悪い人じゃないよ!

…とっても優しくて、紳士的な人なの。顔立ちは、すごくレイに似てて……」



私が、そう言いかけた時

レイが、しびれを切らしたように言い放った。



「“紳士的”だって?そういう奴は、だいたい猫被ってんだよ。

俺に似てんなら、俺にしろよ。そいつなんかより、ずっと大事にしてやる。」



「…えっ!!!?」




その瞬間

酒場の空気が一変した。



言葉を放ったまま固まるレイ。

眉間にシワを寄せるロディ。

全身の体温が急上昇する私。



い………今

レイは何て………?



と、はっ!と我に返ったレイは

私から目を逸らし、ぶっきらぼうに続けた。



「…口が滑った。い…今の、ナシ。」



…っ!

“ナシ”って…。



心臓が鳴り止まない私は、言葉が出せない。



い、今のは、流れで出ちゃっただけで、深い意味はないってこと?



するとその時、レイがくるっ、とこちらを向いた。


その視線は、いつもの百倍は冷たい。


びくっ!と体を震わせると、レイは低い声で呟いた。



「…さっさと忘れて仕事しろ…!」



「は、はい!!」



私は、急いでソファから立ち上がり、布巾を手にとってテーブルを拭き始めた。



レイの声は、威嚇するようで怖かったけど、今までみたいに“悪魔だ”とは思わなかった。



なぜか胸が騒いで、落ち着かなかった。



…いつものポーカーフェイスだけど、耳だけ赤く見えた……

なんてことは、たぶん私の気のせいだよね。



レイを見ると、また睨まれそうなので

私は黙々といつもの仕事を進めていったのだった。