キィ
酒場の扉が開いて、カバンを手にしたロディが入ってきた。
…!
私は緊張がほぐれ、ロディの顔を見て
ほっとする。
よ…よかった。
二人っきりが続かなくて。
ロディは私を見るなり「よぉ」と挨拶をして私と向かい合うようにソファに腰掛けると
私を見つめながら口を開いた。
「嬢ちゃんに、報告があって来たんだ。
…今聞くか?」
“報告”?
私がきょとん、としてロディを見つめ返すと
彼はカバンとコートをソファに置きながら続けた。
「“ダウト”のことについてだ。
ギルにはもう伝えたが、嬢ちゃんにも言っておこうと思ってな。」
“ダウト”…?!
その言葉に、はっ!とする。
カウンターに、ちらり、と目をやると、レイはいつ間にか席を外していた。
ロディは、私を見ながらゆっくりと話し始めた。
「“ダウト”のトップは、“エンプティ”という名の男らしい。
嬢ちゃんも、何度か耳にしたことがあるだろう。」
私は、それを聞いてロディに頷く。
「エンプティは、相手の魔法を奪い、自分のものにする闇魔法を使うらしい。
嬢ちゃんに宿るシンは、ラドリーさんによって封印されてるが、一度誰かに渡ると奪えるようになる。」
じゃあ、今まで、“シンを渡せ”、と黒マント達が私を襲ってきたのは
部下にわざとシンを奪わせて、そこからシンを取り上げるシステムだったからなんだ。
ぞくり、と背筋が震えた。
私はロディに向かって尋ねる。
「…エンプティは、シンを手に入れて何をするつもりなの?」
すると、ロディは顎に手を当てて静かに答えた。
「動機までは分からないが、エンプティは“魔法使いへの復讐”を企んでいるようだ。
…奴が悪事を始めて、タリズマンのブラックリストに載った“二年前”の出来事を調べてるんだが、まだ時間がかかりそうだな。」
…“復讐”。
確か、シルバーナが“エンプティ様の復讐のため”とかって言っていた。
二年前に、一体何があったの…?
ロディは「まぁ、何か他に分かったら、また言うよ。」と言って立ち上がった。
そして、カウンターへと移動すると、酒場の奥に向かって声をかける。
「レイ、話は終わった。
もうこっち来ていいぞ。」
…!
すると、不機嫌な様子のレイが、つかつかと酒場の奥からカウンターへと戻ってきて
ロディに向かって口を開いた。
「お前な…決まった奴にしか情報を流さないって言っておいて、酒場を会合の場にするなよ。」
ロディは、笑いながら「レイのことは信用してるから、つい、な。」と答える。
…ギルもこの酒場に来て、ロディから情報をもらうことがあるのかな…?
二人の会話を聞いて、ふとそんなことを考えていると
ロディが、はっ、と何かを思い出したような仕草をした。
そして、くるっ、と私の方を見ながら口を開いた。
そこから飛び出したのは、私がまるで予想してなかった一言だった。
「そういえば、嬢ちゃん。
さっき一緒に歩いていた奴は、彼氏か?」
「「えっ?!!」」