ルオンは、はっ、として私を見た。
私は、少しの沈黙の後言葉を続ける。
「…その魔法は悪い魔法で、私は、その魔法を欲しがる闇たちにずっと狙われているの。
…私を守ってくれる人がいるんだけど…その人にいつまでも頼ってばかりで、私は何もできなくて…。」
深くは語れず、私はそのまま黙り込んだ。
…もし、ギルにシンを渡したとしたら、ギルは私の護衛から解放される。
でもそれは、ギルが私の代わりに闇に狙われるようになることを意味する。
ギルが、シンを使って罪を重ねてしまったらと考えるだけで、体が震える。
…シンのリバウンドは未知数…。
ギルの体に、何が起こるかわからない。
でも…このままじゃ、ずっとギルは私に縛られることになる。
ずっと、そのことが心に引っかかっていた。
そこまで考えて、私は、はっ!と我に返る。
…いつの間にか、ぽろり、と悩みを打ち明けていた。
…レイのことを相談するつもりが…
ルオンの過去の話に触れて、つい闇の魔法のことまで喋っちゃった。
…ルオン、どう思ったかな…。
ちらり、と隣の少年を見ると
ルオンは、何かを考え込むように眉を寄せていた。
…?
ルオン…?
すると、その時
ぱっ!と、ルオンが私の方を向いて言った。
「ルミナ。
…そんなに悩むくらいなら、いっそ、僕にシンを渡してみる?」
…!
ザアッ…!と、私とルオンの間を風が吹き抜けた。
…え……?
予想外の言葉に、私は驚いて立ち止まる。
ルオンも、私の一歩先で立ち止まり、ゆっくりとこちらを振り返った。
私は、ルオンが言った内容にも驚いたが
それよりも、もっと驚いたことについてルオンに尋ねた。
「ルオン、“シン”のことを知っていたの?」
私は、“悪い魔法”としか言っていないはずだ。
ルオンは、動揺する私に優しく微笑んで答えた。
「…言ったでしょ。僕は魔法書を読んだことがあるんだ。
僕の育った所には、古代の魔法書が僕の身長をはるかに超える高さまで積み上げられるほど、たくさんあったからね。」
…!
そっか…!
あの千歳草の表紙の魔法書を読んだ人なら、誰でも“シン”の存在を知っているんだ…?
その時、碧眼が私をまっすぐにとらえた。
その瞳からは、何か強い思いが秘められているような気がした。
ルオンの声が、風に乗って私に届く。
「赤の他人の僕にシンを渡しちゃえば、ルミナも、ルミナを守ってる人も、どっちも幸せになれるよ。」
「!」
どくん…!
心臓が鈍く音を立てる。
…私も、ギルも、幸せに…?



