「ふぅ…!これで全部買ったかな…?」



色々あった社交パーティの日から一週間後。


青空に太陽が輝く真っ昼間。



私は街の市場に出て、レイに頼まれた買い出しをしていた。



…“胸の傷事件”から、私はレイと上手く喋れなくなってしまった。


まぁ、あれだけ迷惑かけたんだから、さらりと切り替えられる方がおかしい。



嫌われていたらどうしよう、と悩んでいたが

レイは何事もなかったかのように私を呼びつけ、雑用に借り出すといった感じで、いつもの悪魔ぶりを発揮している。



レイはレイで、どこか緊張してるような気がするけど…

全く表情を崩さないから、レイの思っていることはわからない。



…なんであんなポーカーフェイスでいられるんだろう。



私は、レイの声を聞くたびに

胸が鳴って落ち着かなくなってしまったというのに。



…レイを見るたびに“年上の男の人なんだ”って無意識に考えている自分がいて……



あぁ、もうだめだ…!



同居を始めた頃よりも態度がぎこちないなんて

これじゃあ、さらにレイに気を使わせてしまう…!



悶々と頭を悩ませていると

後ろから私の名を呼ぶ声がした。



「ルミナっ。」




…?

誰…?



ぱっ、と振り向くと

そこには、綺麗な黄金の髪の少年が立っていた。



私は、はっ!として彼の名を口にする。



「ルオン…?!」



私が驚いてルオンを見つめると

彼は、にこっ、と微笑んで口を開いた。



「ふふ、久しぶりだね。またルミナに会いたいと思ってたけど…

こんな所で会えるなんて、運命みたいだ。」



…っ!


さらりと言われたセリフに、私はぱちぱち、とまばたきをする。


…相変わらず、ギルみたいな口調だな。



その時、ルオンが私の提げていた買い物袋をすっ、と持った。



え…?



私が彼を見上げると、ルオンは優しげな表情で私に言った。



「ん、貸して。持ってあげる。

せっかく会えたんだし、一緒に散歩しながらちょっと話そ?」






私が返事をする前に、ルオンは私の手から買い物袋を取って横に並ぶ。


その仕草も、さりげなく車道側に並んだところも、本当にギルのようだ。



私は、ルオンに笑い返しながら尋ねた。



「ありがとう。

…ルオンは、この市場によく来るの?」



すると、ルオンは市場を見回して答える。



「うん。僕、今は一人暮らしだから。

ここでよく買い物して、自炊してるんだ。」



えっ!


私はその言葉に驚いて彼を見つめた。



“一人暮らし”…?

まだ十六歳なのに?



…まぁ、私もお父さんがいなくなってからは一人暮らしをしてたけど…。



家族はいないのかな…?



すると、ルオンは私の心中を察したかのように言葉を続けた。




「幼い頃に家族と離れ離れになってさ。

…まぁ、色々あってね。」