プツ…



だんだんと外されていくシャツのボタン。

ゆっくりと、レイの肌が露わになっていく。




私の体が、先ほどまでの緊張とは

まるで別物の“緊張”で支配された。



もし…“傷”があったら…?



レイは、私に正体を隠していたことになる。



…きっと、それには事情がある。

レイも、ロディも、モートンも、全員巻き込んで隠すほどの事情。



私は、真剣な顔でレイを見つめた。



…プツ



最後のボタンが外された。

レイは、そのままシャツを脱ぎ捨てる。



どくん…!



私は、レイの胸板を見て言葉を失った。




「………!」




そこには斬られた傷どころか、小さな切り傷一つなかった。



綺麗で筋肉質な体に目を奪われる。



「……う…うそ……?」



つい、ぽろっ、と声が出た。



私はてっきり、レイの胸には傷があると思い込んでいた。



心の中で無意識のうちに“ギルはレイだ”
という答えにたどり着いていたけど

…それは間違いだったってこと…?



私は自分の目を疑って、レイの胸板へと手を伸ばした。



…ひた



「!」



レイがぴくり、と震える。



肌を触ってみるが、いたって普通の感触だ。



傷が完全に治りきった、というわけではなく

傷つけられたことがないようだ。



…ほ…本当に何もない。

やっぱり、レイとギルは別人だったってこと…?




その時、頭上からレイの戸惑ったような声が聞こえた。




「……あんま触んな。」



「っ!!!」



私は、ばっ!とレイから離れた。



気まずそうなレイと目が合った瞬間

ぎゅん!!と体温が上がる。



わ…私、勝手にレイに触ってた…!



っていうか、傷がなかったってことは

私はただの“レイの体を見て触った変態”だ。




「ごっ……ごめんなさい!!!

もう何もしないから!近づかないから!!」




居ても立ってもいられなくなり、私はレイから顔を背けて酒場の奥へと駆け出した。



は…恥ずかしすぎる…!

穴があったら入りたい…!



いっそのこと、ギルにこの世から消してもらいたい…っ!!!




レイとロディは、一目散に離れへとダッシュする私を、呆気にとられたように見つめていた。



酒場から離れへと通じる扉がバタン!と音を立てたのを聞いたロディは

ふぅ、と小さく息を吐いてレイに言った。



「…ギルのことを言い出すのかと思ったら、まさか“服を脱いでくれ”なんて言うとはな

…レイ、胸の傷はどうしたんだ?」




レイは、ロディの言葉を聞いた後

すっ、と自分の胸に手を当てる。



すると、レイの胸に大きな傷跡が現れた。


驚き、目を見開くロディにレイは口を開く。



「魔法を使えば、姿形も声も変えられるんだ。

…傷一つ隠すぐらい、どうってことない。」



「…へぇ…さすがだな。

ま、これで完全に誤魔化せたな。嬢ちゃんはもう二度とお前を疑わないだろ。」



レイは、ロディの言葉に「…だといいんだけどな。」と答えて、シャツを羽織った。



しぃん…、とした酒場に、時計の針の音が響く。




「…まだ、バレるわけにはいかねぇんだ。」



レイの小さな呟きは、離れに閉じこもった私の耳に、届くはずがなかったのです。



第2章*完