最後の瞬間まで、きみと笑っていたいから。


家に帰ると玄関に見覚えのない靴が並んでいた。


お母さん以外に、女性のパンプスが二足と、男性の革靴。お客さんが来ているみたいだ。


「ただいま」


リビングを覗くと、テーブルで若い女の人がふたりと、おじさん、そして、お母さんの四人がくつろいだ様子で紅茶を飲んでいる。


珍しいな……。いつもは私の勉強の邪魔になるとかいって、人を呼ばないのに。


上機嫌のお母さんが私を手招きする。


「アミカ、こちら私の料理教室の生徒さんたちよ」

「おかえりなさい」

「お邪魔してます」


お母さんの前に座っている女性ふたりは、確かにオシャレでお金を持っていそうな、若奥様風だ。


だけど隣のおじさんも?


「ハハッ、僕は違います」


私の言いたいことが伝わったのか、おじさんは笑って、シンプルなフレームの眼鏡を押し上げた。


「こちらは谷尾さん。お母さんが新宿でやってる教室のビルのオーナーさんなのよ」