「行く」
立ち上がって、鞄を掴むと、
「えっ?」
「はっ?」
と、目をまん丸にするタケルとカナを振り返って、頭を下げた。
「ごめんね、また誘ってね!」
そして何も言わず、さっさと教室を出て行く多賀宮くんを追いかける。
「えっ、ちょっ、アミカーッ!」
遠くからタケルの悲痛なさけび声が聞こえたけど、足を止めることなんてできなかった。
なんてことない普通の白いシャツに、制服のパンツ。
だけど彼の後姿は、廊下を歩いていても、どれだけの人の中にいても、すぐにわかる。
「歩くの速いね」
追いついて声をかけると、
「お前がちまちま歩くからだろ」
多賀宮くんはふっと笑って目線だけ私に向けた。
お前……か。さっきはアミカって呼んでくれたのに。
何気にすごいドキドキしたのに。
また何かのきっかけで呼んでくれないかな。
そんな都合よくはいかないかな……。

