俺は言われた通りにお嬢様の隣に座る。
お嬢様は、ゲーム機の電源を入れて、自分がやってほしいところまで進ませていた。
「このマルの記号のとこで技を出すの。それで、バツの記号のとこで素早く逃げられるの!ここがこれで……こんな感じっ!」
お嬢様は俺に見本を見せて丁寧に教えてくれた。
数十分後。
俺は完璧に操作をマスターしてしまった。
例のモンスターとやらに、あっさり勝てたのだ。
というか……お嬢様、こういう感じのゲームが好きなんだな。
少し意外に思ってしまう。
「すごいっ!!私何回やっても勝てなかったのに……ゲーム初めてなのにこんなにあっさり!」
お嬢様は感激しているようだった。
「お役に立ててよかったです。」
「これでこの先に進めるわ!ありがとう陽向!」
……あり……がとう……?
そんなこと、お嬢様に言われたことなんてなかった。
というか、誰かに「ありがとう」なんて……
「陽向がいたらモンスターを倒すのなんて楽勝ねっ!」
お嬢様は嬉しそうにゲーム機を抱いていた。
「それは、よかったです。」
俺はお嬢様に笑みを見せてそう返事をする。
「ねぇ!このゲーム、楽しかった?」
お嬢様はゲーム機を見せて尋ねてくる。
そういや悪くはなかったかな。
ゲームって、あんな感じなのか。
まぁちょっと、面白いかもしれない。
「楽しかったですよ。」
そう答えると、お嬢様の表情がさっきよりもパァっと明るくなる。
「このゲーム機、色違いのが他にもあるの!一緒にモンスターやっつけない!?通信で一緒にプレイできるの!」
お嬢様は目をキラキラさせて言ってくる。
「お嬢様がよろしいのなら、私はいくらでも。」
「本当!?さっそくやりましょ!」
「かしこまりました」
そして、俺はお嬢様からもうひとつゲーム機を渡され、通信のやり方を教えてもらった。
俺、こんなことしてていいんだろうか……。
執事として全く働けていない……。
初めてのお嬢様からの命令に、やはり俺は戸惑ってしまっていた。


