そう男が言うと、ドアの向こうから声が聞こえた。
「入って。」
女の人の声だ。
このドアの向こうには、お嬢様の母親。
今までこうやって、まずは母親の部屋に案内され、挨拶をしてからお嬢様の部屋へ行くという感じ。
今回も、それと同じだ。
「失礼します。」
俺は部屋に入る。
広い部屋の中にひとり、綺麗な長い髪の女性が背を向けて椅子に座っていた。
俺は一歩も動かずその場で口を開く。
「今日からここで執事として働かせていただく小室陽向です。」
「……あなたの部屋に案内するわ。」
女性はすくっと立ち上がり、俺の方に振り返ってそう言う。
俺の挨拶は無視されたようなものだ。
でも、こういうことには慣れている。
今までもこんな感じだったからだ。
スラッとしていて綺麗なその女性は、俺のことを見る目が鋭く、威圧感があった。
「ついてきなさい。」
女性は俺のそばまで来てそう言うと、俺の後ろについていた黒いスーツの男が部屋のドアを開けた。
女性は部屋から出ていく。
その後ろを、俺は距離をとってついていった。
「あなたたちは、もういいわ。私がこの方を案内するから。」
「かしこまりました。」
黒いスーツの男たちに女性が言うと、男たちはもうついてこなくなった。
俺は変わらず少し距離を取ってあとをついていく。
女性は何も話さず、もくもくと歩いていく。


