そうしてわたしは今、高校1年生になって、夏休みが明けたことを告げる手紙を書いていた。
未だに、天国の両親とは文通できていないことに気付いてないわけじゃない。
いつもくる返事のお手紙は、郵便局員さんか誰かが気を利かせてくれてるのだとわかっている。
だけど、わたしはその手紙を送ることをやめられなかった。
なぜならわたしは恋をしていたのだ。
丁寧で繊細な、優しさやぬくもりを感じる誰かからのお手紙に。
本当に両親からきたもののように思えるその温かいお手紙に。
綺麗でちょっと癖のあるその文字に。
顔も知らない誰かに、わたしは恋をしていたのだ。
「あら、ののちゃんもう行くの?」
朝早く、7時過ぎに家を出ようとする祖母が、いつものようにわたしに声をかける。
「うん、学校遠いから」
祖母の家から駅まで歩いて数分なのは本当に助かっている。
そうかいと笑った祖母は、わたしにお弁当をもたせると優雅に手を振った。